衰えていく親を受け入れられない
では、なぜ子どもが直接手を出して、親を介護しない方がいいのでしょうか。理由は大きく2つあり、離職して介護に専念する場合は、さらに大きなデメリットが生まれます。
1つ目は、親が元気だった頃を知っているために、現実が受け入れられず、双方がストレスを抱えてしまうということがあります。
親が元気だったころの様子を知っているのは、子どもの特権でもありますが、介護では完全に裏目に出てしまいます。今の衰えた状態をなかなか受け入れられないのです。
前にできていたことが、できなくなる親を見ていらだってしまい、ストレスを抱えたり、「何でそんなことができないんだ」と親にきつく当たって、虐待につながる可能性もあります。また、何とか元の元気な状態に戻そうとして、「もっと足腰を鍛えた方がいい」と長時間歩く練習をさせたり、無理やり外に連れ出そうとしたりすることもあります。
介護は子育てとは違い、何かができるようになったりすることはなかなかありませんし、「もとに戻る」ことはありません。叱咤激励しても、できないことはできません。子どもの方は、よかれと思ってやっているのですが、自分の認識と現実にズレがあるので、摩擦が生じてしまいます。結局、本人も親もつらい思いをして、関係が悪くなりますし、お互い精神的に疲弊してしまいます。
どんどん孤立してしまう
2つ目は、自分だけで責任を抱え込み、孤立しやすくなることです。
介護は医療にも関係しますし、非常に専門的な領域です。飲み込む力が弱くなっている高齢者でも食べやすい、バランスの良い食事を毎食出すことだけでも大変なことですし、介護する側にもされる側にも体の負担にならないよう、安全に入浴させるにもコツが要ります。それを素人がいきなり一人でやろうとするのは大きな負担になります。
しかし、「自分の親なのだから、子どもの自分がやらなくては」と抱え込むと、親の体が弱ってきて負担がどんどん増えていきます。家の中で転んでけがをしたり、認知症が進んだり、病気になったりすると「自分がちゃんと見ていないから転んでしまったのではないか」「コミュニケーションが足りないから認知症が進んだのではないか」と自分を責めてしまいます。
また、親の方も、体が弱っていくほど、そういう姿をほかの人に知られたくない気持ちが強くなり、ヘルパーなどの他人が家に入ることにも抵抗することが多いので、子どもの方も、外部に助けを求めるタイミングを逸して、余計に孤立しがちになります。