映画よりもすごい「魔法」

中身を一度見ればその人気の秘訣も頷ける。まずはテンポが段違いに良い。

駅に列車内にホグワーツに……と、くるくる変わる舞台設営は5秒と経たない暗転時間に行われる。スーツケースや移動式階段など「見立て」を使うことで違和感なく転換する。余計な説明口調もなければ、ざっくり筋を把握しながら、飽きのこないテンポ感で進む。

キャストもハリーからロンからハーマイオニー、ダンブルドア校長などそれぞれのキャラが「アイコン化した服装」をしていることで、目新しいキャストだとしても余計な説明手間もなく理解でき、私のような10年ぶりにハリポタを見るユーザーでも問題がなかった。

なにより本舞台のハイライトは「魔法」だろう。

CGのある映画と違って舞台は生もの。ちょっとした「魔法を使ったことにする」なんて演出では、ガッカリ興ざめである。

だがこの舞台では、暗闇や光を効果的に使い、炎は飛び交い、身体を浮かせたり、自動的に本が閉じたり……。本棚が動く演出はどうやっているのかすらわからなかった。

下半身は馬のケンタウルスはまるで本物と見まがうほどだ。特に吸魂鬼(ディメンター)の演出は映画ではできない浮遊芸で、ぜひ生で見てほしい。

パレスシアター、ロンドン
写真=iStock.com/jewhyte
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米国ブロードウェイ史上最も成功した「演劇」

2022年に「呪いの子」が日本にやってきたとき、すでに評価は確立していた。

米国ブロードウェイ史上「最も興行収入を上げたストレートプレイ(歌ありのミュージカルではない演劇)」で258万枚で3億3000万ドル(約380億円、レートは当時。以下同)で史上No.1となっている。(ミュージカルでは20年以上やっている「The Lion King」や「Wicked」などの10億ドル超えトップ作品がある)

これは1990年代後半、治安も悪く再興を期していたブロードウェイ業界で、Disneyが「美女と野獣」や「ライオンキング」を引っ提げて新規参入し、映画連動で画期的な数字をあげて業界を変えていったのと同じく、インパクトのある「映画業界からの参入成功事例」といえる。

「呪いの子」は、英国演劇界で最高名誉のローレンス・オリヴィエ賞、米国演劇界のアカデミー賞と言われるトニー賞と総なめにしている。演劇・ミュージカル界でも高く評価された作品なので、日本にもってきた時点で「折り紙付きの成功作」であったともいえるだろう。