変化② 外資シネコンの市場開拓

なぜ日本でこれだけヒットしたのか。そもそも2001~02年ごろは日本映画市場の洋画比率が6~7割と史上最もハリウッドの影響が強かった時代。

かつワーナーマイカル(2001年にイオン買収)、ヴァージンシネマ(2003年東宝買収)、ユナイテッドシネマ(のちにローソン買収)など外資シネコンが日本で「新しい映画館」市場を開拓していた真っ最中で、邦画絶不調期の“最後の”タイミングと『ハリー・ポッター』の“最初の”導入が重なっていた。

小説の人気ももちろんあったが、ハリウッド映画として競争相手がかなり少なく外資系IPを根付かせるベストなタイミングだったことも影響しているだろう。

【図表1】ハリー・ポッター 作品別興行収入と国別シェア

ワーナーにとっても『ハリー・ポッター』にとっても、日本は特別だった。だからこそ、2014年に世界5カ所あるテーマパークの中でも「バック・トゥ・ホグワーツ」が展開されたのはフロリダに次いでUSJが2番目だった。

さらに2012年からロンドンで展開された「ワーナー・ブラザーススタジオツアー」も2023年に世界に2番目の場所として東京で展開された。2016年から始まっていた舞台「呪いの子」は、ロンドン、ニューヨーク、ハンブルクと渡ってきて、アジア最初の拠点として2022年に東京・赤坂が選ばれた。

魔法で彩られた東京・赤坂

もうストーリーは完結した。俳優も年を取り、彼らを基軸にした展開も難しい。そうした「成熟のフェーズ」においてIPの担い手として活躍するのは、こうしたLBE(ロケーション・ベース・エンターテイメント)である。

初期投資の金額としては映画に勝るとも劣らず、多大なリスクを負いながら、向こう5~10年といった単位でそのIPの世界を広げ、公演そのものだけでなく周辺でグッズを売ったりテーマカフェを展開したりと、まるで「都心にある小規模テーマパーク」のようにそのファンの“祭り”を盛り上げ続けるのだ。

これは原作者やワーナーのような版権会社だけで実現できる規模のものではない。「呪いの子」舞台に投資してそれを広げようとしたのはTBSテレビやホリプロであり、そうした日本ローカルのパートナーとのアライアンスが必要不可欠だ。

TBSテレビのお膝元である赤坂駅周辺の「IPの小規模テーマパーク」は他IPでは類例がないほどの熱のいれようだ。