80代の親が、50代の子供の生活を支える「8050問題」が深刻になっている。どんな家庭が、どんなきっかけで陥るのか。司法書士の太田垣章子さんは「経済的に破綻するのが見えるのに、有効な対策を打たず、これまでの生活を続けてしまったケースが目立つ」という――。
手をつないで外を歩く新婚カップル
写真=iStock.com/Delmaine Donson
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家賃滞納の現場で見た「8050問題」の萌芽

関西地方の郊外に立つ駐車場付きの新築賃貸マンション。駅からも徒歩圏内の好立地で、共働きのご夫婦が多く入居しています。近所にはスーパーや広い公園もあり、お子さんを望む若い世代には打ってつけの物件です。

今回紹介する家賃滞納の事例は、この一室を借りる塗装業の男性(38歳)です。約1年前に書かれた入居申込書には、24歳の婚約者の名前が記載されていました。間取りは2DKの46m2で、対面キッチン。ここで料理を作り、一緒に食事をとる、微笑ましい新婚生活の様子が浮かんできます。

家賃は9万2000円。このエリアでは少々高めです。新生活をスタートさせる時は財布の紐も緩むもの。少し無理して借りたのかな、と思いました。なぜなら入居申込書に書かれた男性の年収は280万円、婚約者の欄には職業の記載が無かったからです。共働きなら大丈夫でしょうが、男性の収入だけならこの家賃はかなり高い印象です。

男性は入居の翌々月から家賃を滞納し始めていました。もともと借りる際に初期費用として翌月分も納めているので、最初の支払いから滞ったことになります。

大家は「あまりせっつきたくなくてさ」と語った

普通に考えれば、新生活はワクワクの連続だったでしょう。ところが男性は、最初の半年で家賃1カ月分にも満たない額を納めただけでした。その後は1円も支払われた形跡がありません。1度入金していることから、振込先が分からない訳ではなさそうです。

大家さんは「新婚だからね、あまりせっつきたくなくてさ」と督促に消極的でした。人が良すぎたのでしょうか。本来払ってもらうべき家賃を「払って」とお願いするのは、ストレスのかかる作業です。

ただ放置すればするほど、賃借人に借金を積み重ねさせることになります。本当は入金が確認できなければすぐに督促すべきで、実際にすでに100万円近く滞納額が膨らんでいました。

こうなると人が良すぎると言っていられません。大家さんは「裁判でも何でもいいから、払えないなら出ていってほしい」と、私に依頼をしてきました。

私は訴訟準備のため、この男性宅に内容証明郵便を送りました。すると連帯保証人である男性の父親(70代、元会社員の年金受給者)から「会って話したい」と連絡がありました。私としても滞納者の情報を得られる好機であるため、その申し出を断る理由はありません。

こうして男性宅に、滞納者である男性と両親、私が集まって話をすることになったのです。