英語の社内公用語化、店長・管理職全員が海外勤務へ。日本一先進的な経営者が、読者の身近な「悩み」に答えてくれた――。
Q 経営方針の徹底は社員の個性を押し殺すことになるのでは?(29歳・女・派遣)
ファーストリテイリング会長兼社長 
柳井 正氏

若くて、ちょっとできる人は勘違いしやすいのかもしれませんが、個性をだすことと、会社の経営方針に従うことはまったく別のことです。

むしろ、その勘違いを指摘して、個性など殺して、「会社のやり方を徹底しなさい」というアドバイスをした上司に出会えたのは素晴らしいことだと、僕は思います。

というのも、「会社という枠組みの中では自分の個性が発揮できない」と、こぼしている人は、確実に失敗するんです。そして、そんな勘違いを正すことは、上司の務めのひとつだと信じています。

会社をスポーツと置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。

会社の原理原則や経営戦略というのはサッカーなどのチームの基本戦術と同じなんです。個性を尊重しろというのは、サッカーでチームの基本戦術を守らずに勝手にプレーしますと宣言しているのと変わりありません。

本来、会社に参加するということは、基本的なことは会社の考えどおりにしますということで、誰も個性を発揮してくれとは言いませんね。チームの基本戦術を理解して、取り決めに則ってボールを相手のゴールに入れるというのが、チームとして勝つということ。勝手にドリブルしたり、攻撃ばかりで守備をしないような選手は、いくら身体能力に恵まれていてもチームが強くなるためには必要ないのです。

相談者の上司は、会社という組織の中でプレーをするために必要なルールや規範をしっかり把握している人だと思います。あなたは反感を持つかもしれませんが、ルールに無頓着だったり、あやふやだったりする上司より、よっぽど筋の通ったいい上司だと僕には思えるのです。

業績のいい会社でも悪い会社でも基本となる組織づくりというものは、似たり寄ったりの場合が多い。では、「いい」「悪い」をわけているものは何か。それは、経営方針が末端の社員まで正確に伝達されているか否かでしかないのです。これは個性を発揮してはいけないのではありません。

相談者のあなたも、会社のルールを根底から理解しようと努めてください。そうすれば必ず、違う風景が見えてくると僕は思います。