早期から「おりこうさんの脳」を育てる必要はない

特に5歳までの子どもは、何をおいても脳の土台となる「からだの脳」を育てることが重要です。しかし、この時期に早期教育や習い事を始める家庭は少なくありません。習い事などで刺激されるのは「おりこうさんの脳」です。

「おりこうさんの脳」は1歳頃から育ちますが、発達の中核をなすのは6〜14歳頃であり、18歳頃まで時間をかけてゆっくりと発達します。幼児期から「おりこうさんの脳」ばかり刺激された子どもは、幼少期は大人の言うことをよく聞く、「賢くておりこうさんな子」として周囲の評判も上々でしょう。

勉強している子供
写真=iStock.com/Hakase_
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ところが小学校高学年から中学生くらいになると、不登校や摂食障害、不安障害など、さまざまな問題を抱えるケースが非常に多く見られます。「からだの脳」が育つ前に「おりこうさんの脳」ばかり育ててしまうと、脳全体がアンバランスな状態になり、やがて心の問題として顕在化してしまうのです。

繰り返しになりますが、脳の三つの機能には発達する順番があり、それぞれのバランスをとることがとても重要です。脳を一軒の家にたとえるなら、1階が「からだの脳」、そして2階に「おりこうさんの脳」があります。この家を作る際、1階部分がまだ完成していないのに、2階部分から作り始めてしまうと家全体が崩壊します。まずは1階部分を作り、ある程度、形ができてから2階部分に着手する。そして最後に1階と2階をつなぐ階段部分にあたる「こころの脳」が完成するのです。

まずは「からだの脳」をしっかり育てるべき

人間はゆっくり成長する生き物です。そして成長には個人差があります。周りの子どもと自分の子どもを比べ、「あの子はもうアルファベットがスラスラ読めるのに、うちの子はまだ一文字も読めない」「お友達がプログラミング教室に通い始めたから、うちの子も通わせないと」などと慌てる必要はありません。「おりこうさんの脳」だけを大きく育てても、土台となる「からだの脳」が貧弱であれば、どこかでバランスを崩す可能性があります。

幼少期の小さな焦りのせいで、子どもの脳のバランスを大きく崩してしまうと、あとから立て直すのは大変です。「年齢の割にしっかりしている」「もうアルファベットが読める」という短期的な評価を得る代わりに、中長期的な問題を抱えるリスクを冒してまで早期教育をする必要があるのか、私には疑問です。

規則正しい生活により「からだの脳」が育っていれば、その子の心身は健やかに成長します。勉強や友達関係などで少しくらい大変なことがあっても、脳が致命的なダメージを受けることはない、というのが私の脳育ての理論です。