人々の心を鷲づかみにする「一流の話法」
なるほど、彼の大学院進学をめぐっては、『週刊新潮』が、その経緯に関するさまざまな疑惑を報じている。いっぽうで、その恩師・ジェラルド・カーティス氏も取材に応じ、「彼は成績も良かったし、一生懸命、勉強した」と証言している。彼がコロンビア大学で何を得たのか。さらに、その修了後に籍を置いた、戦略国際問題研究所(CSIS)を通じた人脈から、その後の政治活動への影響を考えられよう(※3)。
ここで重要なのは、彼がどんな政治家か、という点ではないか。
例えば、おそらく日本の歴史上、もっとも「高学歴」な首相は、東京大学工学部を卒業し、スタンフォード大学大学院でPh.D.(博士号)を得た、鳩山由紀夫元首相だろう。まだ首相はおろか、自民党総裁にすらなっていない進次郎氏と、鳩山氏を比べるのは時期尚早とはいえ、どちらが政治家として適しているだろうか。
進次郎氏の人気の秘訣として、「まず相手の名前を覚えることからスタート」し、「目についた部分を言葉にして質問する」といった「コミュニケーション術」によって、「信頼関係が構築され始める」と、ノンフィクションライターの常井健一氏は指摘している。「相手との心の距離が一瞬にして、一気に接近する」という進次郎氏の“一流の話法”は、「学歴ロンダリング」や「世襲」といった難点を跳ねのけて余りある。
大学進学率が過去最高57.7%に対して、大学院は7.4%
毎日新聞の報道によると、あの「進次郎構文」にしても、これまではマイナスにみられていたものの、都知事選で次点につけた石丸伸二氏の「石丸構文」と比べて「平和的」と評され、プラスに見られつつあるという。
進次郎氏が「学歴ロンダリング」だとしても、その魅力はいささかも減じられないのではないか。それでも、日本社会が「学歴」を気にする社会、「学歴コンシャス」な社会である、とは言えよう。その背景は、どこにあるのか。
昨年、日本における大学進学率は、過去最高の57.7%に上昇した。他の国と比べたときに、この数字を高いととるか、低いととるか、その判断は難しい。短期大学や専門学校を含めた、高等教育全体への進学率は高いものの、「学歴ロンダリング」の舞台となる大学院修士課程以上に進む割合は、7.4%と、決して高くはないからである。
参考文献
※3:中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)