電子コミック市場は右肩上がりの成長を続けている。インプレスの調査によると、2022年度には5000億円を超えた。紙の漫画のアシスタントだった丸山恭右さんは2019年から漫画アプリへの配信を始め、年収2000万円を稼ぐ電子漫画家になった。なぜ紙媒体をやめて電子コミックを選んだのか、ジャーナリストの富岡悠希さんが聞いた――。

作画もアシスタント指示もすべてオンライン

2LDK、月家賃29万円の新築マンションが丸山恭右さん(31)の自宅兼仕事部屋だ。その一室の机には、液晶ペンタブレットとモニター2台が並ぶ。右手の専用ペンをタブレット上で迷いなく動かし、左手のショートカット用デバイスをこまめに操作しながら、主人公などを描いていく。合間にはモニターに映したLINE上で、20代前半から40代後半までのアシスタントの男女7人とやりとりする。

漫画家といえば一人黙々と机に向かい、締め切り前には徹夜続き……。昭和時代のイメージだとこんな風かもしれないが、令和の今はまったく違う。

平成の後半期にあたる十数年前、筆者は紙の週刊誌連載を複数抱えている著名漫画家を取材した。豪邸に構えた作業スペースでは、多数のアシスタントがずらり。かたや丸山さんは作画を全部デジタル化しているため、オンラインで作品作りを完結している。

「集まるとなると、アシスタントさんへの交通費や食費の支払いが生じます。在宅だと移動時間なしで、絵を描いてもらえるし、デジタルのほうが合理的です」

『TSUYOSHI』が累計400万部のヒットに

さらに丸山さんは、徹夜のような体への過度な負担も避ける。仕事時間は原則午前10時から午後10時までの12時間のうち9時間ほど。残る3時間でしっかり休憩を取るほか、スポーツジムでの運動も習慣化している。

こうしたスタイルで世に届けているのが、『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』だ。設定は、一見普通のコンビニ店員ツヨシが、実は不敗神話を築いているほど喧嘩に強い、というもの。2019年に中堅漫画アプリの「サイコミ」で連載を開始し、すぐに看板漫画の一つとなった。

中肉中背のメガネという普通の見た目のツヨシは、勤務先のコンビニで横暴な態度をとるクソ客を成敗する日々。その不敗神話を聞きつけた猛者が次々とやってきて――。
©Kyosuke Maruyama・Zoo/Cygames, Inc.
中肉中背のメガネという普通の見た目のツヨシは、勤務先のコンビニで横暴な態度をとるクソ客を成敗する日々。その不敗神話を聞きつけた猛者が次々とやってきて――。

そのサイコミでの掲載は250話を超え、単行本は2024年8月に23巻まで出た。紙と電子版は累計で400万部を超え、今後も数字の伸びが期待できる。

かつて漫画家の収入は、紙での連載時の原稿料と単行本での印税が主だった。アプリ配信時代の現在は、サイコミの原稿料と紙の単行本の印税に加え、電子書店やアプリ内課金からの印税もそれぞれ手に入る。『TSUYOSHI』の最新話はサイコミに配信されるが、漫画アプリ最大手の「ピッコマ」や「LINEマンガ」にも随時掲載される。もちろん、そこからのお金もくる。