光の速度に関する重大な発見
ところが、そこに絶対的な等速直線運動をする物体が突如現れました。それが、光でした。電磁気学の研究が進む中、マクスウェルが構築したマクスウェル方程式を使って計算すると、光の速度(光速)は、秒速約30万キロメートルであることが導き出されてしまったのです。そのことの何が問題だったのかについて、詳しく解説していきましょう。
ガリレオの相対性原理に基づくニュートン力学では、「速度合成の法則」というものが成り立ちます。これは、自分から見た相手の速度、つまり、相対的な速度が、自分の速度と相手の速度の足し算・引き算によって計算できるという法則です。
たとえば、同じ時速250キロメートルで走っている2つの新幹線同士がすれ違うとします。このとき、新幹線に乗っている乗客はそれぞれ、すれ違った方の新幹線が時速500キロメートルで走っているかのように見えます。
速度合成の法則により、「250+250=500」だからです。逆に、2つの新幹線が同じ時速250キロメートルで並行して走っている場合、新幹線に乗っている乗客はそれぞれ、並行して走っている新幹線が止まっているかのように見えます。速度合成の法則により、「250-250=0」だからです。
ところが、もし光の速度(光速)が、常にマクスウェル方程式から得られる値だとした場合、この速度合成の法則が当てはまらなくなってしまうのです。
光の速度(光速)は、光を観測する人が動いていても止まっていても、常に一定の秒速約30万キロメートルと観測されるということになるからです。
「光速は常に一定の秒速約30万キロメートル」
実際、1887年に、アメリカの物理学者アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーが、のちに「マイケルソン・モーリーの実験」と呼ばれる重要な実験を行いました。
これは、音が空気を媒質として波(音波)として伝わるように、光も「エーテル」という物質を媒質として波(電磁波)として伝わると仮定したとき、地球がエーテルに対してどのように運動しているかを検証するものでした。
もしエーテルが、太陽に対して静止していたとすると、地球は秒速約30キロメートルの速度で太陽の周りを公転しているので、公転方向と垂直である南北方向に進む光に比べて、東西方向に進む光は公転速度の分だけ速度が違っているはずです。
ところが、マイケルソン・モーリーの実験では、光の速度はどちらもまったく変わらなかったのです。これは、光には、速度合成の法則が当てはまらないことを表しています。
この「観測者によらず、止まっている人から見ても動いている人から見ても、光の速度(光速)は常に一定の秒速約30万キロメートルである」という原理は、「光速不変の原理」と呼ばれています。マクスウェル方程式から導き出された光速の理論値は正しかったことが、マイケルソン・モーリーの実験によって実証されたのです。
マイケルソン・モーリーの実験は、光速度不変の原理の出発点となりました。マイケルソンは、光学の研究に対する功績が認められ、アメリカ人初のノーベル物理学賞を受賞しています。
とはいえ、これでは、長年信じられてきたガリレオの相対性原理およびニュートン力学に重大な欠陥が見つかったことになります。このことは、物理学における大問題となりました。
しかし、この問題はアインシュタインが構築した特殊相対性理論により解決することになります。
詳しくは本書で解説しています。ぜひご覧ください。