時代も国も宇宙も超えて解放される

祖父も父も作家の家に生まれた私は、本に囲まれて育ちました。父のところには書評を求めて絶えず献本が届き、玄関に山積みになっていました。積み上げられた本や父の書庫から私は勝手に本を持っていき、面白ければ自分の本棚に入れ、合わないと思ったら元の位置に戻すことを繰り返していました。

ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』 生体改造や人工知能、ネットワークが発達した近未来。荒廃した社会と高度なテクノロジーを描く「サイバーパンク」の代表作。「日本語訳の自在さも素晴らしい」(池澤氏)。
ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』 生体改造や人工知能、ネットワークが発達した近未来。荒廃した社会と高度なテクノロジーを描く「サイバーパンク」の代表作。「日本語訳の自在さも素晴らしい」(池澤氏)。

あるとき父の書庫にいくと、3つある棚のうち一番左の奥がよく歯抜けになっていることに気づきました。歯抜けになっているのは、「当たり」で面白い作品が多く、私が書庫に戻していないからです。その一角にあったのは、青、ピンク、それに白の背表紙たち。ハヤカワ、創元、サンリオという3つの出版社から発行されるSF文庫です。父が「それらはSFって言うんだよ」と教えてくれて、初めて私はSF小説が好きなんだと理解しました。