「引用」を名言に変えたスティーブ・ジョブズ

ジョブズは、ご存じの通りアップル社を創設しiPhoneやiPadなどを生み出した人物。

特にスタンフォード大学の卒業式のスピーチ「ハングリーであれ、愚かであれ」の名言は、CMでも使われるなどあまりに有名です。

これは、まるでジョブズの名言のように独り歩きしていますが、実はジョブズが考えた言葉ではありません。

ご存じの方も多いかと思いますが、「ホールアース・カタログ」という雑誌の裏表紙に書かれていた言葉を、スタンフォードでのスピーチ原稿で引用したものでした。

スピーチの中でその雑誌の魅力について語り、掲載された荒野の一本道の写真と、そこに書かれていた「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、愚かであれ)」の言葉を、こんなふうに説明していました。

「(雑誌ホールアース・カタログの)最終版の裏表紙は朝の田舎道の写真で、冒険好きがヒッチハイクをしていそうな場面でした。その下にこんな言葉があります。

『ハングリーであれ、愚かであれ』。これは、(編集長の)スチュアートたちが活動を終えるに当たっての別れの言葉。私は常にこの言葉のようにありたいと願ってきました。そして今、皆が卒業して新たに歩みを始めるに当たり、皆にもそうあってほしいと思います。

「ハングリーであれ、愚かであれ」

こうして締めくくられたスピーチでジョブズが学生たちに贈った言葉は、ジョブズが思い描くハングリー精神を端的に表し、あまりにインパクトが強いものでした。

スティーブ・ジョブズを表示したApple製品
写真=iStock.com/Waseef
※写真はイメージです

印象に残る引用方法のコツ

聞き手も自分たちを鼓舞してくれる言葉として、ハッとさせられ、さらには覚えやすいフレーズだったこともあり、誰にとっても心に残る名言になったというわけです。

これが「雑誌の裏表紙にこんなふうに書かれていた」と説明しただけでは、ここまでの広がりはなかったように思います。

最後に念押しで、この短く濃い言葉を繰り返して締めくくった粋な使い方。この提示方法こそが言葉自体にインパクトを与え、名言として引用された言葉以上に名言化されたのでしょう。

広くこの言葉を知らせてくれたのがジョブズだっただけ。でも、ジョブズが養子であり、大学を中退して食べ物にも困る日々を送り、自分が作った会社も追われ、ガンになって死と向き合い……と紆余曲折の人生が語られたあとだったからこそ、そして何よりも、ジョブズ自身の心が動いた言葉だからこそ、誰しもの心に刺さったのだと思います。

こうして誰でもわかるようなストーリーの流れを作り、引用を組み込むことは、人を話に引き付けるために効果的。人の心を動かす人たちにみられる、共通点が次のような「引用」方法です。