“遺産が少ない”のにモメる3つの理由
興味深いことに、相続する財産が少ないほどモメるとよくいわれます。資産5000万円を境にして、それよりも少ない家のほうがモメるという統計データもあります。
その理由は、いろいろとあるでしょうが、おもに次の3つが考えられます。
①両親に対しての親孝行が、寄与分として民法で日当程度しか認められない
介護などで苦労していても、いざ相続になると、その寄与分は苦労に比べると微々たるものです。そこで、「あれだけ面倒を見たのに、なんで私もみんなと相続額が一緒なの?」と納得がいかずに争うケースが増えています。これは、資産家の場合よりも、遺産が5000万円以下のほうが切実に思われます。
②教育費、結婚での援助など、子どもに対する親からの援助が平等になっていない
これはよくある話です。しかも、みんな自分が不利だと思っているのです。自分は得をしたと思っている人はほとんどいません。とくに、遺産5000万円以下のほうが、そうした不平等な状態になっていることが多いようです。
③資産家のほうが相続に対する心の準備ができている
おそらく、これが一番大きな要因ではないかと考えます。遺産5000万円を超える資産家は、代々大きな財産を相続している方が多いので、一族のなかで遺産相続に対する心構えができています。
実際に、書籍・記事・セミナーなどで最悪なケースを頭に入れている場合が多く、それを反面教師として「売り言葉に買い言葉でけんかになる」ことを防いでいるのでしょう。
モメる原因の8割は“気持ち”の問題
ところで、さまざまな相続を見てきた経験から言うと、モメる原因はただお金だけではありません。むしろ、お金が2割で、残りの8割は気持ちの問題であるように見えます。お金で解決できればまだいいのですが、きょうだいの長年にわたるしこりや恨みなどが、心のなかにわだかまっていて、いざ相続になったときに爆発するのでしょう。
なかには、ちょっとした気持ちのすれ違いで泥沼化してしまった例もあります。母親が亡くなって遺された3人の息子のうち、1人が相続放棄をするということで話がまとまりかけていたケースです。
ところが、相続放棄をした弟が、「兄貴はまったく感謝の気持ちがない。相続放棄をしたんだから、もっと感謝してくれてもいいじゃないか」と怒ってしまい、モメてしまったのです。
相続というと、お金の動きばかりが注目されますが、それ以上に気持ちが重要だということがわかるいい例です。残念なことに、相続でモメたことで、その後の親戚付き合いができなくなる例も珍しくありません。
50代、60代前半の相続人にとって残念なのは、自分の子どもたちが、モメている様子を間近に見てしまうことです。相続の当事者たちはカッカしているので、そうしたことに気がつかずに、自分の子どもなら当然味方をしてくれるだろうと思っています。
それはそうなのですが、多感な子どもの頃に、親たちが相続争いをしているのは、あまり見たいものではありません。仮に、モメたとしても、子どもの前で愚痴を言うべきではありません。家のなかでは、話題にしないほうがいいでしょう。
しかも、相続でモメた親というのは、子どもたちに向かって「あなたたちはモメないようにしなさいね」と言いたがるものです。親にとっては気をつかっているつもりでも、子どもにとっては「それじゃ、辻褄が合わないじゃないか」と感じて反発してしまうのです。