きょうだいで比べるとモメる原因になる
相続でモメている人は、きょうだいと自分とを、何かにつけて比べる傾向があります。親子は一親等ですが、きょうだい同士は二親等です。縦に直接つながっている親子の関係と違って、きょうだいは親を通じて横に並んでいる関係と言えます。
横に自分ではない人間が並んでいると、人はどうしても隣を向いて自分と比べてしまいがちです。それが、モメる相続になる大きな原因となっているようなのです。
「私は公立の学校なのに兄は私立の学校だった」「私は結婚式が地味だったのに妹は派手だった」「私はいつもお姉さんのお下がりの服だった」といった具合です。
子ども時代からのそうした不満がマグマのようにふつふつと心の底にたまり、それが相続のときにドカンと噴き出してしまうことで、モメる相続になってしまうのです。
しかし、他人と自分を比較しても、何も生産的なことはありません。
「比較していいのは過去の自分と現在の自分、あるいは現在の自分と理想の自分の姿だけだ」そう述べたのは、オーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラー(1870~1937年)です。
精神科医でもあったアドラーは、自分と他人を比較して優越感や劣等感を抱くことの無意味さを説きました。比較をするとしたら、「過去の自分と現在の自分を比較して優越性を持つこと、あるいは理想の自分と現在の自分を比較して劣等感を抱くことだ」と述べています。
モメないためには「比べない」
相続では、すべてが平等というわけにはいきません。不動産はきれいに等分できないので、誰かが不満を持ってしまうのは避けられません。相続でモメないためには、割り切れない思いがあっても、比べないことが大切です。
「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉をご存じでしょうか。中国古代の思想家、老子の言葉に由来するといわれ、「天道は厳正であり、悪いことをすれば必ず報いがある」という意味です。
相続でどうしても納得いかないことがあったら、「お天道さまが見てくれている」「悪いことをすると、いつかしっぺ返しがくるだろう」と考えればいいのです。自分が相手を罰しなくても、必ずいつかは天が罰してくれて、譲った人には必ず天がいい報いをしてくれるはずです。
実際に、長年お手伝いしてきた相続を見ていると、「譲った人にツキが巡ってくる」ことをしみじみと感じます。
あるプロゴルファーの父親は、相続にあたって不満はありましたが、あえて争おうとはせず、きょうだいの求めるままに譲ることにしました。すると、それまで娘のプロゴルファーは今ひとつ成績が振るわなかったのですが、その後はかなりの活躍を見せるようになったのです。似たような例は、枚挙にいとまがありません。