アイドルファンの変化

たとえば、安倍なつみと面談後、あまりの完璧な笑顔に「安倍の笑顔が怖かったなー」と一歩引いた目線での感想を漏らしたり、ロック志向で最初はアイドルらしからぬ細眉だった石黒彩には「石黒の眉毛も社会にどんどん溶け込んでいったよな」と軽くいじったりする。

オーディション番組の審査員と言えば、業界の大物が厳しい顔つきでもったいぶった講評を述べる。そんな堅苦しいイメージだったが、『ASAYAN』のつんく♂の言葉はフランクで、いかにもファンがテレビの前で言っていそうなものだった。

その姿は、多くのアイドルファンから支持された。ネットでは親しみを込めて本名の「寺田」などと呼ばれ、つんく♂はまるで同じファン仲間のような扱いを受けた。

逆に言うと、『ASAYAN』を見ているファンもつんく♂に自分を重ね、審査員気分に浸ることができた。元々アイドルファンにはプロデューサー目線でアイドルを見るひとも少なくないが、「2ちゃんねる」のようなネット掲示板も登場するなかで一家言を持つようなアイドルファンが格段に増えた。

ただ、ファンにはどうしても越えられない壁もあった。つんく♂が一流のミュージシャンであったことだ。しかしそれゆえに、つんく♂がモー娘。の音楽を生み出す現場に立ち会えたのも『ASAYAN』のほかにはない魅力だった。

コンサート
写真=iStock.com/Cesare Ferrari
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歌詞には書かれていない「言葉」

たとえば、新曲のレコーディング風景はそのひとつ。なかでも印象的だったのが、独特の歌唱指導である。

モー娘。最大のヒット曲「LOVEマシーン」のレコーディング。後藤真希(13歳でありながらオーディションに金髪で現れ周囲の度肝を抜いた話は有名だ)が新加入で、このときのメンバーは8名。つんく♂はその一人ひとりに細かく指示していく。

たとえば、飯田圭織には、「熱けりゃ 冷ませばいい」の「熱けりゃ」をそのまま「あつけりゃ」ではなく「んあつけりゃ」と頭に「ん」をつけろと指導したかと思えば、「恋愛っていつ火がつくのかDYNAMITE 恋はDYNAMITE」のところを歌う保田圭には、「ダイナマイト」ではなく「ザイナマイト」と歌えと指示する。

自分が書いた詞をわざわざ崩して歌えというのだから面白い。VTRを見ていたMCのナインティナイン・矢部浩之からも笑いながらのツッコミが入るが、本人たちは真剣そのもの。そのギャップがまた面白い。