正しい批判力を身につけるべき理由
非難や否定と似ているようでいて、全く異なるのが「批判」です。批判力とは、物事を立体的に見る力です。「批判」を辞書で引いてみると、このように書かれています(精選版 日本国語大辞典から引用)。
1 物事に検討を加えて、判定・評価すること。
2 人の言動・仕事などの誤りや欠点を指摘し、正すべきであるとして論じること。
3 哲学で、認識・学説の基盤を原理的に研究し、その成立する条件などを明らかにすること。
研究者が論文を書くときには、先行研究を調べ、先行研究について「それって本当?」「この角度から見ても成立するのだろうか?」と、意見や情報を批判しつつ、新しい論理を展開することがよくあります。研究に対して批判が行われることによって、その研究が磨かれ、結果として学問の進歩につながっています。つまり、批判には生産性があるのです。
さらに批判には、当事者が気づいていないことを指摘するような意味合いもあります。例えば仕事が遅い人に対して、「どうしてこんな簡単なこともできないんだ」と言うのは非難に当たりますが、批判の場合は、「こういうところが原因で仕事が遅くなっているのではないだろうか」と指摘するようなイメージです。
本人に見えている視点とは別の視点から物事を見てフィードバックするので、新たな視点を本人に提供し、進化や成長の機会を与えることができます。
このように、同じ現象に対しても、非難・否定・批判では、かなり現象が違うことがわかります。
自分1人で何かを考えるときにも、それぞれを分けておくと、思考力が高まります。仕事で何かにチャレンジしたいと思ったとき、この3つの違いを知っていれば、「自分にはできない」「自分はなんてダメなんだ」ではなくて、「こういう部分が足りていない」と自分に対して批判力を使うことができるからです。
私たちが仕事をするとき、業務内容によって関わる人の数が変わってきますね。1人でできる範囲の仕事もあれば、10人、20人でチームを組んで進めなければならない仕事もあるでしょう。
関わる人数が増えれば、できることの規模が変わってきます。1人でできる仕事なら、「それって本当?」と自分に対して問いかけながら進めていけばいいのですが、関わる人数が増えれば増えるほど、この「批判力」をうまく使うことが大切になってくるのです。
批判が活発に行われるほど、違う角度から物事を見るチャンスが増えることにつながります。批判ができない関係性や環境では視野が偏ってしまい、新しいアイデアが生まれません。
ちなみに、批判をする際には、建設的なやり取りをする土台があること、つまり相手も受け止める準備ができていることが大前提です。