上海ロックダウンで「中国脱出」を決意

景気の悪化、不動産不況、政治リスクなどがある中国に「見切り」をつけて、日本など海外に移住する富裕層が後を絶たない。筆者は2022年の夏頃からこうした傾向を知って取材を開始、23年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)で紹介した。あれから2年がたったが、いまも中国を脱出して海外移住しようとする人がいる。その理由は何なのか。

22年11月。筆者は都内のレストランで20代後半(当時)の中国人男性に取材する機会を得た。その男性は同5月、東京・江東区にあるタワーマンションに転居しており、その理由を聞くためだった。当時、男性はため息をつきながら、こう答えてくれた。

「21~22年、中国のゼロコロナ政策がとても厳しくて、私は常に緊張しっぱなしでした。外出中、たまたま立ち寄った建物で新型コロナの感染者が出たら、私もそこに足止めされ、隔離の対象になってしまいます。自分の人権や自由が一瞬にして失われてしまう、という恐怖を覚えました。とどめは上海のロックダウン。何とかして、中国から脱出したいという一心で、日本に移住する方策を考えました」

上海の街並み
写真=iStock.com/Eugeneonline
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不動産の爆買いは「投資」から「移住」へ

この男性のように、22年3~5月に行われた上海のロックダウンが「日本移住」の引き金になった、と語る中国人は非常に多い。それ以外にも21年に施行された「共同富裕政策」により、自分の財産を守れるかといった不安や心配があったが、それがあのロックダウンによって一気に爆発したのだ。

それ以前、15年頃に起きた「爆買いブーム」の頃から日本の不動産を買う人は徐々に増えていたが、主に「投資」としてだった。だが、その時期(22年)を境に、「投資」だけでなく自身の「移住」を真剣に考える人が猛烈な勢いで増えたのだ。

22年4月頃、筆者はロックダウン渦中にある上海の友人らのSNSやニュースサイトを見ていたが、大手検索サイト「百度」で「移民」関連のキーワードが急上昇。移民関連の検索が5000万回を超えた。報道によると、検索した人の出身地で最も多かったのは上海だった(22年4月5日〈「このままでは中国政府に殺される」自宅に軟禁された上海市民2600万人のSNSには書けない叫び〉参照)。