ゆりかごを経た女児は4歳で命を奪われた
その象徴的なケースが、2023年5月に三重県で起きた4歳児虐待死事件だった。この事件では、2019年に孤立出産した母が産後1週間でゆりかごに預け入れたが、母親が翌日、自らの情報を明らかにした。熊本市児相が三重県児相に連絡し、ほどなく県と児相の関係者が母親の自宅を訪ねているが、母親の産婦人科受診やトラウマケアなどの支援は行われなかった。
女性は孤立を深め、愛着障害や発達症の可能性のあった女児について周囲に助けを求めることができず、虐待により死に至らしめた。その経緯は連載の第1〜3回で記した通りだ。
ゆりかごの検証報告書は第1回から各自治体における妊娠相談や母子支援体制の徹底の必要性を指摘している。だが、それが仮に全国の自治体に届いているとしても、現実の体制はおよそ追いついていない。孤立出産嬰児遺棄事件は全国で毎月のように発生している。赤ちゃんを遺棄した女性たちは特定妊婦の対象からこぼれ、熊本のゆりかごにもたどり着くことのできなかった人たちだ。
母親に対する自治体のフォローは驚くほど少ない
慈恵病院では2021年12月に内密出産の受け入れを開始、31件の内密出産を受け入れた(24年7月29日現在)。そのうち12人が出産後に内密を撤回し、3人が赤ちゃんを自分で育てる選択をした。だが、彼女たちは心身の不調に苦しんでいる。
慈恵病院の新生児相談室長である蓮田真琴氏は、彼女たちに対する行政の支援が少ないと訴えた。
「ふつうは産後の母子には1カ月検診のお知らせがあり、赤ちゃんだけでなくおかあさんも検診を受けることができます。でも、ある女性には、赤ちゃんの検診のお知らせだけで、おかあさんの検診についてはお知らせがありませんでした。
内密出産を望むほどに孤立した女性が赤ちゃんを育てることを決めたというのは、一見喜ばしいことですが、女性の背景には複雑で困難な要因があります。言葉を選ばずに言えば、赤ちゃんの安全にも関わるリスクが他のおかあさんより高く、赤ちゃんのケアと同じくらい、おかあさんのケアが必要なのです。
それなのに自治体のフォローは驚くほど少ないです。孤立出産というギリギリの選択を迫られた彼女たちへの理解と支援が全く足りていません。赤ちゃんの命を守りたいと本当に思うなら、真剣に母親の支援について考える必要があるのではないでしょうか」