三菱の性能実験部は「高速惰行法が正しい」と思って続けていた

その走り方は、毎時20キロメートル、30キロメートル……90キロメートルというふうに10キロメートル単位での速度を基準とし、試験自動車を指定速度+5キロメートルを超える速度から、ギアをニュートラルにした状態で指定速度が+5キロメートルから15キロメートルまで惰行させるようになっています。

つまり、一定の速度で走ったあとにどのくらい、そのままの勢いで自動車が走っているのかをもとに惰行する時間を算出するというものです。これを最低各3回ずつ繰り返して、平均惰行時間を求めます。

中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)
中原翔『組織不正はいつも正しい』(光文社新書)

走行抵抗は、(詳しい数式は省略しますが)平均惰行時間と試験自動車の重量をもとに計算され、さらにシャシダイナモメータに設定する目標走行抵抗は必要な係数をかけるなどして求められています。簡単な説明にはなりますが、ここまでが惰行法の概要説明になります。

それに対して、性能実験部が用いていた測定方法とは「高速惰行法」と呼ばれるものでした。三菱自動車では、1978年から高速惰行法を使用していたと言われており、これは試験自動車を毎時150キロメートル(もしくはその自動車の最高速度の90%)とかなりの高速域まで上げてから5秒間保持したあとに惰行を始めるという方法になります。

高速と言うくらいですから、高速域の走行抵抗を計算するのに適していたものの、惰行法のように低速域の走行抵抗を求めるのには適していなかったとも言われています。三菱自動車では、このような独自の測定方法が使用されていたのです。

つまり、三菱自動車の燃費不正とは、本来定められている惰行法を使用することなく、高速惰行法に基づいた測定方法を使用していたというものであったのです。

【図表4】排ガス・燃費測定の方法
出典=国土交通省「WLTCモードについて
【関連記事】
【関連記事】なぜ豊田章男氏は「不正撲滅は無理だと思う」と語ったのか…「組織不正」の研究者が見た認証不正問題の根本原因
【第2回】だから日本車の燃費はカタログの七掛けだった…行政と企業の「正しさ」の追求が引き金となった燃費不正の内実
認証不正問題、本当に悪いのは国交省とトヨタのどちらなのか…欧米で使われる「アンフェア」の本当の意味
日本に豊田章男氏がいたのは幸運だった…「EV化の真実」を主張し続けた豊田氏が筆者に明かした「真意」
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ