数年後にはモバイルからのアクセスは7割になる
企業の情報発信において、ネットの活用は今や常識だ。活用方法は多岐にわたるが、やはり最も重要な場所はウェブサイトだろう。ただし、そのサイトはスマートフォンからのアクセスに対応したものだろうか――。総務省の『情報通信白書(平成24年版)』によれば、平成22年に9.7%で初登場したスマートフォン保有率は、翌年の23年には29.3%へと急上昇している。さらに「iPad」などのタブレットも急速に普及しつつある。
日本のようにフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)でネットにアクセスする文化があまりなかった北米などでは、スマートフォンがネットにアクセスする重要なデバイスとして広く認識されている。ガラケー文化が浸透していた日本でも、スマートフォンやタブレットなど「新たなモバイルからネットを利用する」という生活習慣は確実に広がっている。
「企業のエグゼクティブやWEB担当者は、今後『モバイルファースト』という考え方を重視すべきです。たとえば、われわれのクライアントである企業サイトの場合、すでに新規訪問客の30%程度をモバイルからのトラフィックが占めています。中には50%を越えた女性サイトもあります。ところが、スマートフォンに対応したモバイルサイトがない場合、せっかくサイトを訪れてくれたカスタマーの離脱率が高くなってしまうのです。北米でも日本でも、今後ネット利用におけるモバイル比率はますます高まっていくでしょう」
そう語るのは、PC向けサイトをモバイルサイトに変換するサービスを提供するカナダの『MOBIFY』社CEO、イゴール・ファレスキー氏(27)だ。15歳でロシアからカナダへ移住。大学卒業後、22歳で同社を起業した。わずか5年前のことだが、モバイルサイトへのニーズの高まりとともに業績は拡大。これまでに『スターバックス』や『シーメンス』『ブリティシュ・テレコム』など大手クライアントのサイトを手掛け、現在では2万件以上のアカウント(サービス利用者数)を発行するモバイルサイト最適化のリーディングカンパニーとして躍進中だ。
ファレスキー氏によると「すでにWEBサイトへのモバイルからのアクセスは3割という臨界点を越え始め、今後数年で6~7割まで高まると予想されている」という。さらに「これからはスマートフォンやタブレットでの操作を前提にした『モバイルファースト』でのサイト作りが必要となります」と話してくれた。「ウェブの業界は、これまで15年以上にわたって、PC向けのウェブサイトを構築してきました。そのやり方を改め、モバイルサイトから作るようにすることです。なぜなら情報入手の起点がPCからモバイルへと動いているからです。スマートフォンやタブレットは、PCに比べて通信速度や画面サイズなどの制約があるため、ウェブサイトを軽快に表示するには、情報をより絞り込むといった工夫が必要です。また、指先で画面を軽く触る『タップ』や指先を縦横に払う『スワイプ』など、モバイルならではの操作方法があります。『モバイルサイトから作る』とは、サイトを構築する最初の段階から、そうした特徴を踏まえて作っていくということです」
さらにファレスキー氏は、「重要なことはサイト構築の手順だけではありません」という。
「モバイルとPCでは、カスタマーの行動がまったく違います。モバイルのカスタマーは、より速く、より少ない手順で、情報を手に入れたいと考えます。このためネットでの情報発信は、カスタマーの状況や行動に合わせて、よりわかりやすく、より使いやすく提示することが大切になります。それは『コンテンツファースト』とも言い換えられます。モバイルでは、これまでのような企業側の独りよがりな情報発信ではよい効果を得られません。カスタマーの目線に立つような発想の転換が必要であり、それが『コンテンツファースト』であり、『モバイルファースト』の考え方なのです」
モバイルでは、PC向けのサイトに比べて、データの量を抑えることが大事になる。さらに、モバイルでサイトにアクセスするカスタマーの行動や環境を想定しながら、絞り込んだ情報を効果的に伝える必要があるということだ。
また、GPSを始めとするスマートフォンの機能を活用することで、従来のPC向けサイトではできなかったようなコミュニケーションが可能になる。たとえばMOBIFYのユーザーでもあるスターバックスの場合、PC向けサイトではストアロケーター(店舗位置情報)はあまり機能できていなかった。一方、モバイルサイトではMOBIFY社が開発したGPS連動のアプリを組み込むことで、移動中のカスタマーが近くの店舗を簡単に探すことができるようになった。
「モバイルファーストを取り入れることで得られる企業のベネフィットは、即時性、より広いリーチ、Eコマース、ソーシャルメディアとの連携など、おそらくはみなさんの想像以上にたくさんあるのです」(ファレスキー氏)