わずか2年で風景は一変した。いまやSNSの一番のウリは「ゲーム」だ。毎月数万円を投じる利用者が後を絶たず、「ゴールドラッシュ」の様相を呈する。はたしていつまで続くのか──。

「仲間」を助けるためにカネでレベルアップ

これは10年ぶりに再来したネットバブルなのだろうか。株式市場で、SNS(交流サイト)大手のグリーとディー・エヌ・エー(DeNA)が注目を集めている。9月27日現在の時価総額はグリーが5087億円、DeNAが4811億円。

「メディアの王」といわれたテレビ業界で最大の日本テレビ放送網が2828億円だ。キー局5社合計でも8791億円で2社の合計を下回る。

「王権交代」の事実はメディア接触時間でも裏付けられる。メディア環境研究所の調査によると、東京地区の20代男性では、総接触時間409.1分のうち、パソコンと携帯電話を合わせたインターネットへの接続時間は208.4分で、テレビの141.2分を大きく上回る。男女を問わず、ほかの年代でもテレビの接触時間がほぼ横ばいなのに対して、ネットへの接続時間は増え続けている。

ゲームに強い2社の営業利益率は50%に迫る
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ゲームに強い2社の営業利益率は50%に迫る

では若者はネットで何をしているのか。ひとつの答えが「ソーシャルゲーム」だ。

ソーシャルゲームとは、SNSを通じてほかのユーザーと交流しながら遊ぶゲームのことだ。主に携帯電話で利用されており、基本的には無料。事業者は広告配信やゲームを有利に進めるための「アイテム」を販売して収益を得る。

人とのつながりは強力なモチベーションを生む。協力や支援、競争、妨害、抗争。人間関係や実力差がデータで可視化されるため、「より多くの仲間を集めよう」「もっとレベルを上げよう」という動機が生まれやすい。しかもそのために必要なアイテムは、努力や練習なしに、カネさえ出せば手に入れられる。

<strong>探検ドリランド</strong>●グリー。2008年8月に開始。当初は財宝発掘ゲームだった。11年5月からカード収集の要素が強化。プレーは基本無料だが、有料の「ガチャ」を引くと、より強いカードが手に入る。

探検ドリランド●グリー。2008年8月に開始。当初は財宝発掘ゲームだった。11年5月からカード収集の要素が強化。プレーは基本無料だが、有料の「ガチャ」を引くと、より強いカードが手に入る。

SNSでは以前からソーシャルゲームが提供されていたが、DeNAとグリーが「アイテム課金」に力を入れるようになって以降、風景ががらりと変わった。2471万人の登録ユーザーを持つミクシィの売上高は168億円、営業利益率は20.0%(11年3月期)。一方、DeNAは1127億円、49.8%(同上)、グリーは641億円、48.5%(11年6月期)。会員数ではDeNAの運営する「mobage(モバゲー)」が2971万人、グリーが2641万人と大きな差はないにもかかわらず、収益構造はまったく異なる。ミクシィは売上高の79.3%が広告だが、DeNAやグリーは大半が「アイテム課金」による収入だからだ。

アイテムには様々な種類がある。グリーの人気ゲーム「探検ドリランド」を例に説明しよう。このゲームではダンジョンを探検して、モンスターと戦いながら、財宝を集める。探検を進めると「スタミナ」を消耗する。時間が経てば回復するが、待ちきれない場合には1個100円の回復薬を購入すれば、すぐにゲームを再開できる。また探検中にはモンスター討伐に必要な「ハンターカード」が手に入る。だが強力なモンスターを倒すには「レア(希少)」なカードが必要で、収集には時間がかかる。このため「ガチャ」という有料のくじが用意されている。1回300円でくじを引くと、強力なレアカードが手に入るかもしれない――。

アイテムや有料くじの価格は、ゲームによっても異なる。くじの当選確率や詳しい中身は明らかではないが、SNSを通じて「当選した」という投稿を見る機会は多い。また希少なカードを努力で手に入れたのか、課金で手に入れたのかは、判断が難しい。くじに当たれば、何十時間ものプレーを省くことができる。

※すべて雑誌掲載当時

(ロイター/AFLO=写真)