もともと物覚えが悪いのは認知症ではない
認知症は脳の病気です。もう少し専門的にいえば、認知症は、「いったん正常に発達して機能していた知能が、脳疾患によって進行性に障害された状態」と定義されます。「進行性」ですから、もともと物覚えが悪く、その状態が悪化していないなら、認知症とはいえません。
生活面に注目した認知症の定義は、「物忘れを含む知的能力の低下により、仕事や社会生活に支障を来した状態」です。
したがって、最近物忘れが目立ってきたなと感じても、それまでできていた仕事や日常生活がトラブルなく営めているなら認知症とはいえません。
日常生活に潜む認知症のサイン
Q.家族が認知症ではないか心配です。認知症のサインを教えてください。
認知症の初発症状には、
①約束したことを忘れ、同じことを何回も聞いてくる。
②日時、曜日がわからなくなる。
③物の置き忘れが増え、よく探し物をする。
④以前はできた家事がうまくできない。
⑤お金の管理ができない。
⑥ニュースなど周りの出来事に関心がない。
⑦意欲がなくなり、それまでやっていた趣味・活動をやめた。
⑧感情が不安定で、疑い深くなった。
⑨トラブルへの対応が適切にできない。
などが挙げられます。これらの症状が複数見られるようになったら、認知症のサインですので専門外来受診をおすすめします。
認知症の患者さんは病識、つまり病気の自覚がないので、通常、ご本人が一人で来院されることはなく、家族に連れられて診察室にいらっしゃることがほとんどです。物忘れが増えていると気づいている場合でも年相応のものだと見なし、困っているとおっしゃる方は少ないです。自分の症状を適切に評価できないことは認知症の特徴の一つです。
私どもが、認知症が疑われる方に診察室でよく質問するのは、「現在、困っていることはありますか?」「現在、楽しみはありますか?」「最近(3カ月以内)気になるニュース(政治、経済、国際情勢、芸能、スポーツなど)を挙げてください」の3つです。