コップから記憶がこぼれ落ちていく状態
アルツハイマー病の記憶障害は、コップに注ぐ水によくたとえられます。
コップの底にある水は古い記憶、上のほうにある水は新しい記憶であると考えてください。正常な人はコップの背丈が高く、新しい記憶をどんどん注いでもコップからあふれ出ることがありません。
一方、アルツハイマー病ではコップの背丈が低くなり、新しい記憶がこぼれ落ちてしまいます。症状が進行すると、さらにコップの背丈が低くなり、新しい記憶を留めることが難しくなるのですが、コップの底に溜まっている古い記憶は最後まで残ります。
アルツハイマー病では5分から数日以内の記憶「近時記憶」が障害を受ける症状が初期から見られますが、ご本人が子どもの頃や若い頃の記憶「遠隔記憶」は長く保たれるのが普通です。
一口に記憶といっても、いろいろ種類があり、アルツハイマー病で最初に障害を受けるのは、自分が体験した事柄の記憶「エピソード記憶」です。一方、「意味記憶」と呼ばれる、知識や一般常識は保たれます。昨日の夕飯に何を食べたかとかどんな交通手段で病院に来たかといったことは忘れるのですが、過去に勉強して覚えた知識は比較的長く保たれます。
日時、季節、場所の順にわからなくなる
見当識障害とは、時間、場所、人間関係がわからなくなる症状です。初期には日時、季節がわからなくなり、次に地理感覚が障害を受けます。馴染みがあるはずの場所で迷子になったり、家に帰れなくなったりするのは見当識障害のためです。症状が進むと、人間関係がわからなくなり、自分の配偶者や子どもまで認識できなくなります。
処理能力の低下は、環境への適応能力の低下と言い換えてもよいでしょう。引っ越しや旅行など、それまで過ごした場所から移動したときに新しい環境に対応できず、パニック状態になることがあります。冠婚葬祭で適切な行動がとれなかったり、ATMや電化製品を操作しにくくなったりする症状です。
実行機能とは、計画を立てて、物事をスムーズに遂行する能力です。よく見られるのは、料理ができなくなることです。料理が得意だった人が簡単なメニューしか作れなくなった、味付けがおかしくなった……こんな出来事をきっかけにアルツハイマー病を疑い、受診されるケースは少なくありません。