「英語公用語化」の発表を受けて、津田教授は三木谷浩史・楽天社長と柳井正ファーストリテイリング社長に再考を求める手紙を送った。

まず1つは、「日本語・日本文化の軽視」です。

日本社会にはいま「英語はカッコいい」という感覚が蔓延していますが、楽天、ユニクロという著名企業が英語を社内公用語にしたというニュースが広がれば、英語信仰ともいうべきこの意識がますます拡大するでしょう。

何よりも問題なのは、その反作用として、日本語を軽視する意識や態度が広がってしまうことです。行き着く果ては、日本語と日本文化の衰退です。

いま、地球上には6000~7000の言語があります。しかし少数・先住民族の言語は近代化やグローバル化、それにともなう英語支配のために、どんどん減少しています。少数・先住民族の人々は、生き延びるために自分たちの言語を捨てて、英語に“乗り換えて”います。その結果、彼らの言語は消滅するのです。

これは決して山奥の少数民族だけの話ではありません。

たとえば、かつてアメリカの植民地だったフィリピン。この国では、民族固有の言語であるフィリピノ語(タガログ語)が国語で、かつ英語とともに公用語になっています。

とはいえ、政治・経済・教育・マスメディアといった分野では英語が使われ、フィリピノ語のほうは私的なおしゃべりに使われる程度になっています。知的な言語は英語であり、フィリピノ語は国語とはほど遠い立場に追いやられているのです。

結果、フィリピンの作家の多くはフィリピノ語ではなく英語で作品を書く傾向にあり、フィリピノ語による文学がフィリピンの主要な文学にはなっていません。

いうまでもなく、これを日本に置き換えたらたいへんなことになります。紫式部以来の豊かな日本文学の伝統が衰退してしまうということです。すでに一部の日本人作家は英訳を前提に小説の執筆を続けているといいますから、他人ごとではないのです。