「祇園祭はショーではなく、神事。酒を出すことは推奨できない」

京都の夏は、殺人的な酷暑で知られる。それを日除けが設置された畳敷の座椅子席でくつろぎながら、目の前を多数の鉾が横切る様を見られるのだ。さらに、プレミアム観覧席の場所は「辻回し」と呼ばれる、鉾が回転する様子を間近で見ることができる最高のロケーションだ。

客には英語・日本語対応のイヤホンガイドのサービスの他、京料理のおばんざいやビール・ワインなどのアルコール類が飲み放題で提供された。観光協会が用意した84席のうち8割方が売れたという。

観光協会は今年もプレミアム観覧席を用意。サービス内容を見直して、大幅に割引きし、最大15万円(山鉾に搭乗できるオプションを入れると20万円)と昨年の半額以下の料金設定にしていた。アルコールの提供は昨年並みに実施する方向であった。

昨年の祇園祭の様子
撮影=鵜飼秀徳
昨年の祇園祭の様子
昨年の祇園祭の様子
撮影=鵜飼秀徳
昨年の祇園祭の様子

ところが、これに意義を申し立てたのが、祇園祭を執り行う八坂神社の宮司であった。

「祇園祭はショーではなく、神事。酒を出すことは推奨できない」として、自身が理事を務める観光協会からの辞任も示唆した。結果的には観光協会が折れた形となった。結局、食事は提供せず、飲み物はソフトドリンクのみという方向性で事態は収まった。

八坂神社の野村明義宮司は記者会見で不快感を露わにした。

「昨年こういうサービスが提供されて内容に驚いていた。神事にお酒はつきものだが、その飲み方、飲ませ方が神様を感じ取っていただける有り難いお酒ならいいが、ショーを見るような形でのお酒の振る舞いはいかがなものか。行政と神社側の隔たりのなかでこういうことが起きてしまった」

確かに、宮司の言い分はわからぬではない。特に京都では、オーバーツーリズムの弊害があちこちで起きている。八坂神社でも参拝客が本殿(国宝)の鈴の緒を無茶苦茶に振って、鈴を破損させるなどの被害やトラブルが起きていた。八坂神社は今年5月、夜間は鈴の緒を上げて鈴を鳴らせないようにした。

最近では八坂神社からもほど近い、浄土宗総本山の知恩院の三門(国宝)の柱に傷がつけられた。こうしたマナー違反や犯罪行為は、京都の寺社の多くが経験している。

観光客相手の商売や、有料拝観寺院であればメリットも大だろうが、多くの京都人や一般寺社にとってはオーバーツーリズムは「百害あって一利なし」であろう。東京・渋谷ではインバウンドが集結して路上飲みする問題が指摘されているが、昨今の京都でも似たような状況が生まれている。インバウンドの観光マナーの改善、ゴミや騒音への対策は、行政が早急に対策を打たねばならない。