寝不足になると食欲が止まらなくなる

睡眠と肥満には密接な関係があります。睡眠専門外来を訪れる患者さんは大きく分けて2種類います。一時的なストレスで眠れなくなった人と、睡眠不足が慢性化して「睡眠負債」がたまっている人です。前者はゲッソリしている人が多いのですが、後者は逆。睡眠不足が長期化している人は、むしろポッチャリする傾向があるのです。

太った腹を気にする男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
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睡眠不足が続くと太りやすくなることは、臨床現場の印象だけではなく、複数の医学論文でも裏付けられています。まとめて要約すると、睡眠時間が1時間短くなると、肥満の指標であるBMIが0.35上昇します。BMIは体重を身長の2乗で割ることで求められ、たとえば身長が170センチメートルの人だと、BMI0.35の上昇は体重約1キロの増加を意味します。つまり、睡眠時間が1時間短くなると1キロ太るのです。

睡眠と食欲の関係は、脳科学の観点からも解明が進んでいます。私たちの食欲をコントロールしているのは、脳の視床下部にある満腹中枢です。約25年前、この満腹中枢からオレキシンという神経伝達物質が見つかりました。満腹中枢で発見されたので、オレキシンは当初食欲に関係すると考えられましたが、実は私たちを覚醒させる神経伝達物質であることが判明しています。覚醒と睡眠は表裏一体の関係。つまり食欲と睡眠は同じ中枢でコントロールされていたことがわかったのです。

ただ、食欲と睡眠が同じ中枢に関係していても、その事実はすなわち寝不足で肥満になることを意味しません。では、なぜ睡眠不足で肥満になるのか。これは2つのメカニズムで説明ができます。

まず一つは、食欲に関係する2種類の生体ホルモン、グレリンとレプチンの影響です。グレリンは空腹ホルモンと呼ばれ、おなかが空くと胃から分泌されて「食べないと死ぬぞ」と指令を出します。それと対をなすのが満腹ホルモンであるレプチン。永遠に食べ続けると動けなくなって危険なので、レプチンで「これ以上食べるな」と指令を出します。

食欲を促すグレリンは起きているときに活性化します。逆に食欲のブレーキ役を担うレプチンのレベルは下がるので、慢性的な睡眠不足になると「食べろ」と指令が絶えず出ている状態になり、太りやすくなるわけです。

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