人間は一夫一妻制の種と言えるのか。心理学者のアンジェラ・アオラさんは「人間は文化や時代によってさまざまな形のパートナーシップがある。研究者の間でも今なお結論は分かれている」という――。

※本稿は、アンジェラ・アオラ『不倫の心理学』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

ソファで二人の女性の間に座る男性
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人間は一夫一妻制か乱婚制か

生殖と繁殖はそれぞれの種にとって極めて重要である。効率的に繁殖するために、種によって異なる進化を遂げてきた。動物界で最も一般的な繁殖戦略の1つが乱繁殖である。95~97%の種が行っていて、残りの3~5%が社会的一夫一妻制を実践している。

XとYが出会い、一緒になり子供を作り、共に子育てをする。互いに忠実であるのは表面上だけだ。機会があればその裏で他と交尾をするのが普通だ。研究者の中ではこの種の浮気は「日和見主義の浮気」と呼ばれ、生物学上の父親ではない、社会的父親のもとで育つ子供やその数に関係があると言われている。

研究対象の小動物の1つがプレーリーハタネズミだ。社会的一夫一妻制をとる小柄な動物である。この小さなハタネズミは生まれ、成長し、思春期を過ぎた頃にパートナーを見つける。ハタネズミは一生の間に何匹もの子供を産み、育てる。一緒に巣を作り、縄張りを守り、餌を与え、子供の世話をする。互いにそばにいて、離れると分離不安を見せる。

表向きは社会的一夫一妻制でも裏では浮気する

交尾をするとメスはオキシトシン、オスはアルギニンバソプレッシン(オキシトシンとバソプレッシンに似た神経化学物質)の放出が誘発され、両方とも報酬中枢を刺激しドーパミンが放出される。これで両者は複数の異なる相手ではなく、特定の1匹の相手を好むようになる。

このつがいの形成には脳のオピオイド系とドーパミンやその他の神経系も関与している。つがいで行動するハタネズミは一生を共に過ごし、表向きは忠実で社会的一夫一妻制だが、機会があれば浮気をする。

動物をテーマに話を続けよう。乱繁殖のシロアシネズミやアカゲザルはつがいを持たない。特定のパートナーとの結びつきがないのだ。彼らは一夫一妻制のハタネズミにある、ある種の受容体が脳内の同じ場所に見当たらない。