スタートアップは既存企業を見下している

ただ、私はそれが悪いことだとは思っていません。

スタートアップがよくわからないながらも、あの手この手で支援しようとしてくれているわけです。現状への危機感がなければなかなかできないことです。

中には、「私にはわからないから、ベンチャー起業家に任せる!」と言う大企業経営者もいました。これもある意味勇気のある発言であり、私はポジティブにとらえました。

逆に、スタートアップ、ベンチャー企業の側は、大企業側の思いについて理解しているでしょうか。

単に「古臭い」「時代に合っていない」「既得権益」などと、悪く思って見下している人もいるかもしれません。

そういう風に見るのは間違いだし、「損」だと思います。

相互に尊重し学び合うことが大事

既存の企業や社会のあり方に問題意識をもち、そのカウンターであろうとすることは重要です。

ですが、既存企業を敵視することはまた別の問題です。

既存の企業を敵視し、排除することが、ベンチャー企業やスタートアップにとって得になるとは思えません。

先ほど「わからないから、ベンチャー起業家に任せる!」という大企業経営者の発言をご紹介しましたが、ある意味、この経営者のほうがクレバーだと思います。

スタートアップのことは理解していないかもしれませんが、それを自覚した上で、変化の重要性について認識しているわけですから。

大事なのは、相互尊重(mutual dependence)、お互いに学び合う(mutual learning)、こと。成長はその先にあるのです。

いまやGAFAMは「レガシー企業」

15年前、私がバブソン大学で教鞭をとり始めたころ、学生たちの意識は「次のGAFAMは誰だ」に向いており、自分たちがそうなってやろうという熱量がありました。

ところが、いまやGAFAMはレガシーな企業になりつつあります。

起業家志向の学生たちは「次の新しい業界」を生み出す必要がありますが、しかし、新たな業界はなかなか生まれるものではありません。

山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)
山川恭弘『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』(講談社)

自然とアイデアは「既存事業の間を狙う」ものが増えてきます。

大企業が手をつけていない、手をつけられない、見落としているニッチな市場、事業を見つける方向に走るのです。

もちろん、ニッチだから駄目だという話ではありません。十分なサービスが行き届いていないニッチな市場にサービスを提供するというアイデアは素晴らしいものです。

でも、少し寂しい気持ちにもなります。大スケールの事業はスタートアップの手には負えない、と思い込んでいるのではないでしょうか。

「レガシー企業」を敵視してはいけない

「やめたほうがよくない?」
「これまで誰もやってないでしょう?」
「失敗したらどうするの?」
「うまくいく保証はあるの?」

秩序を守る傾向が強い日本では、こういう声が大きくなりがちです。

その反面、日本ではスタートアップやベンチャー企業の人間が、「レガシー企業」を敵視してしまいがちです。

そうではなく、既存の社会を受け入れた上で、「自分が信じた道を行く」ことが重要なのです。

日本社会の「秩序」はメリットです。それを受け入れつつ、変わる必要があれば変わる。それが大事なのです。

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