自民党元総裁の谷垣禎一さんは党幹事長を務めていた2016年7月16日、趣味のロードバイクで転倒し、頚髄を損傷した。下半身に重い障害が残り、政界を引退して車いすの生活を送っている。著書『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)より、事故後のリハビリのエピソードを紹介する――。
谷垣禎一さん
画像提供=扶桑社
谷垣禎一さん

ベッドで寝たまま状態から一変

《2016年秋、1カ月半におよぶ集中治療室での生活を終え、初台リハビリテーション病院(東京都渋谷区)に転院した》

集中治療室では、ほとんどベッドに寝たままの状態でした。一日中パジャマを着て、栄養は点滴で補給していました。手をうまく動かせなかったので、病院食に移行した後も自分で食べることはできませんでしたし、歯磨きなども自分ではできませんでした。

ところが、リハビリ病院に入ったら、治療方針ががらっと変わったんですね。転院してきたとき、看護師さんにこんなことを言われました。

「自分でできることは自分でしてください。一日中パジャマで過ごすのはやめて、朝起きたらまず着替えましょう。顔はできるだけ自分で洗い、歯磨きやひげそりも自分でしてください。食事はベッドの上ではなく、自分で車いすを動かして食堂へ行って食べてください」

自分でできることは自分でする――。それは要するに、病院以外の場所でも暮らしていけるようになることです。つまり看護師さんは、私が自宅に帰ってからも暮らしていけるようになるためのステップを説明してくれたわけですね。さらに別の言い方をすれば「社会復帰」への過程を示されたということです。

受刑者の社会復帰とよく似ている

《自らの社会復帰を考える中で、ふと法相のころの仕事を思い出した。法務省は罪を犯した人の立ち直りを手助けし、職業訓練などを行って、健全な社会人として生きていくための支援をしている》

看護師さんの話を聞いて「どこかで聞いたことがあるな」と思いました。刑務所や少年院に収容された者がやっていることとよく似ていたのです。

受刑者らも社会復帰をしようと思ったら、自分のことは自分でやる必要があります。つまり、自発性を持って取り組まないとなかなか難しいんですね。そして、自分一人でできるなら簡単だけど、そうではないから、いろんな人の助けを借りるわけです。私も理学療法士や作業療法士らの助けを借りています。

障害者と犯罪者の社会復帰に向けた取り組みは、言ってみれば精神は同じで、極めて共通の面があると思いました。こういう言い方をすると嫌がる人もいるんですけどね。