復旧はまだまだこれから

現時点で、ウクライナは(復興ではなく)復旧に向けた取り組みを進めています。

最も優先度が高いものがエネルギーインフラの復旧です。二つ目は橋や道路などの輸送インフラの復旧、三つ目は病院や学校などの社会インフラの復旧、四つ目は地雷除去です。

ウクライナは農業大国で、国土には広大な農地が広がっています。しかしロシア軍を撤退されることのできた地域では、今も多くの爆発物が残っています。戦時中でも農作業を止めることはできず、地雷などの爆発物が農業の妨げとなっています。

高速道路や鉄道、ドニプロ川にかかる橋、港湾設備などの大規模インフラの復旧は、ロシア軍によるミサイル攻撃で再び破壊されてしまう恐れがあるため、プロジェクトが延期されています。

輸出に関しては引き続き問題はありますが、輸出量は徐々に増えてきています。ポーランド国境で発生したデモが鎮静化したこと、黒海のロシア艦隊へのドローン攻撃が奏功したなどがその理由です。ウクライナ南部の都市オデーサからルーマニアのコンスタンツァを結ぶ輸送ルートも始まりました。

大使館前で写真撮影に臨むコルスンスキー大使
写真=小峯弘四郎
大使館前に立つコルスンスキー大使

日本企業と一緒に復旧・復興を進めていく

日本の大手企業はあまり公開していませんが、ほぼ全ての大手企業・商社がウクライナ専門の部署を設け、企業ごとにさまざまなビジネスが検討されています。そこではウクライナへの投資が検討され、定期的に現地の視察が行われる態勢が作られています。

唯一の障害となっているのが安全面への懸念です。日本の外務省から渡航許可が下りない事例も多くありますので、日本国内で経営者のみなさんと会議を行い、エネルギーや農業などの分野で大規模プロジェクトを進めているところです。

セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使
写真=小峯弘四郎
セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使

インタビューを終えて

5月21日、ロシア軍はウクライナ侵略の拠点としている南部軍管区で、戦術核兵器の使用を想定した演習を開始した。今後の戦況はより激化することが予想され、ウクライナは、地対空ミサイル・パトリオットミサイル(MIM-104 Patriot)などの防衛システムがより必要となる状況になるだろう。

日本政府は昨年12月22日、防衛装備品の移転ルールを定めた「防衛装備移転三原則」を改定し、パトリオットをアメリカに輸出すると表明した。今回の移転はアメリカからの要請に基づきアメリカ軍の在庫を補完するもので、戦後の歴史を変える大きな一歩を踏み出したと言える。今後、日本は自身のミサイル不足や生産能力の低さを改善させていかなければならない。

中国やロシアの動きから明らかなように、日本の安全保障環境は深刻化している。ウクライナが直面する危機は決してひとごとではなく、日本は積極的に防衛システムの供与を進めていく必要があるのではないか。今そこにある危機を認識し、日本自身が国力を強め、世界でリーダーシップを発揮できるようになることを願う。

(文=フォトジャーナリスト・小峯弘四郎、取材=EPU代表理事・加藤秀一)
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