9 腹が立ったら“オウム返し”

映画・TVで号泣、爆笑 感情をデトックス

高齢者になると、怒りっぽい性格になるということは、よくいわれています。とくに認知症の初期には、それまで穏やかだった人が、ちょっとのことで怒鳴ったり怒ったりする症状が出ることが知られています。

人間の脳には、頭脳を使って賢く生きるための脳と、本能のままたくましく生きるための脳があります。

本能や感情を司る脳は奥の奥のほうに隠れていて、その周りを賢く生きるための脳が覆っています。そして本能が暴走しないようにブレーキをかけたり、感情をコントロールしたりしているわけです。

子供は賢く生きるための脳が未発達なうえ羞恥心もないので、本能のままに泣いたり怒ったりができるのです。大人になっていくにつれ、脳は自然と本能をコントロールするようになっていきます。しかしさらに年齢を重ねて認知能力が落ちてくると、子供と同じように賢く生きるための脳の機能が低下することで、本能の部分を抑えきれなくなり、怒りなどの感情が出やすくなってしまうのです。

よくあるクレーマーではなく正しい怒りであれば、私は怒ることも悪いことではないと思っています。でも現代は感情を外に出しにくいですよね。そこで私は感情を溜め込まずに、定期的に放出するようにしています。ちなみに私の場合は、泣ける映画などで号泣したり、お笑い動画で大笑いしたり。こうやって感情を出してあげることで、感情のデトックス効果が期待できるほか、脳のゴミのクリーニングにも役立ちます。

しかも怒ることによって、活性酵素が溜まったり、血圧が上がって脳の血管が傷ついたりと、脳にとっては悪いことしかないのです。怒りをコントロールするアンガーマネジメントの術を身につけることが、脳のためにも必要となります。

一般的におこなわれるのは、前述の深呼吸。瞬間的な怒りが続くのは約6秒ほどといわれています。その間に深呼吸をすることで、怒りの感情を鎮めるわけです。

それに加えて私がよくおこなうのは、“オウム返し”のツッコミです。例えば予約なしで受診をされた患者さんが、長く待たされたことでイライラが募り、抗議をしてきたようなとき。こうしてオウム返しをするのです。

「1時間も待たせるとは、どういうことだ!」
「1時間も待たされたんですね」
「そうだ、1時間も待たされたんだ!」
「そうなんですか、1時間も待たされたんですね?」

ここまでくると患者さんの興奮が収まり、「そうなんだよ……」と口調も穏やかになってくるのが普通です。人間には、発言をオウム返しされることで、瞬間的な興奮が収まるという性質があるのです。

一方、1時間も待たされていることに抗議する患者さんに、私が最初からこんな説明をしたらどうでしょう。

「予約の患者さんが優先なので、お待ちいただくことは仕方がないんですよ」

患者さんは患者さんで、予約なしで来たのだから仕方がないとわかっているはず。でもそれをあえて指摘されると売り言葉に買い言葉。図星のことを指摘された患者さんにもかえって怒りが湧いて、言い合いになってしまうのではないでしょうか。ですから、説明よりもオウム返し。

何か理不尽なことがあり怒りが湧いてきたなら、心のなかで自分の主張にオウム返しをして、自分にツッコミを入れてみてください。怒りによって生まれたゴミのクリーンアップに役立つはずです。

10 非日常空間を求め旅に出る

最後に怒りを鎮め、脳を活性化させる手段として、私が患者さんにいつもおすすめしているのが、旅です。街、人、景色など、知らないものに触れて刺激をもらうのはもちろん、旅のプランを立てる準備段階から、脳にいい影響を与えてくれるでしょう。そして何より、感情のデトックスができるところもポイントとなります。

さて、みなさんは前編のチェックシートでいくつのチェックがついたでしょうか。チェックが多かった人は気を付けて。チェックが少なかった人も油断は禁物。人の脳は必ず衰えますが、早めに脳にいい生活習慣を始めれば、それだけ認知症のリスクは減ります。楽しいことに打ち込んで、脳のゴミをクリーンアップしましょう。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年6月14日号)の一部を再編集したものです。

(構成=福光 恵)
【関連記事】
【前編】認知症の元凶「脳のゴミ」を掃除する…脳神経専門医が推奨する1日1杯の「特製スープレシピ」大公開
こうすれば「年金ひとり暮らし」が一気に優雅になる…楽しく節約しながら脳イキイキの法則
扉をバンッと閉めて怒りをぶつけてくる…精神科医が教える「不機嫌がダダ漏れの人」に対抗する簡単な方法
ウォーキングよりも効果的…「疲れない」のに運動強度は高く血糖値も下がる"身近な運動"の名前
仕事もない、話し相手もいない、やる事もない…これから日本で大量発生する「独り身高齢男性」という大問題