「『50代 転職』で検索したら出てきたから…」

「60歳で定年になるので転職サイトに登録したんですが、マンションの管理人の職しか出てきません」

悩みながら相談に来られた56歳の岡本さん(仮名)。部長を務める大手製造業には勤続30年以上で、大学生と高校生の二人のお子さんがいる四人家族です。

再雇用制度を利用するか、定年を待たずに退職金をもらって転職するか。

ひとまず岡本さんがやったのは、誰もが知る大手転職サイトの登録だったのです。

さっそく訊いてみました。

「どうしてその転職サイトを選んだのですか?」
「『50代 転職』で検索したら、いちばん上に出てきたから……」

岡本さんも苦笑していましたが、私も思わず笑ってしまいました。

岡本さん、普段の仕事でも、いつもそんなことをされていますか? 仕事で何かを調査するとき、オンライン検索のトップに出てきたことをそのまま鵜吞みにされますか? 決してそうではないはずです。

人は初めてのことになると、なぜか思慮の足りないコトをしてしまう――。これは往々にしてあることです。必要なのは、戦略と実践。普段の仕事でやっていることと同じではないでしょうか。

仮説を立て、動いてみる。そうすれば、仮説の良し悪しだけでなく、相手も見え、自分も見えてくる。自分なりの工夫や独自の手法も思いつき、余裕も生まれてくる。要するに、30年間社会人としてやってきたことを、そのまま転職活動にも応用すればいいのです。

小さく始めて練習するコツ

戦略のポイントは大きく2つ、「お金」と「時間」です。

お金というと、どうしても転職や副業先の収入ばかりを意識しがちですが、それ以前の投資にも目を向けることが大事。すなわち“自分への投資”です。それで選択の幅がぐっと広がります。

資格取得や学び、越境学習など、セカンドキャリアに向けてもういちど自分を耕してみる。国もリスキリングやリカレント教育を推進する中で、圧倒的に選択肢が増えています。

自分への投資額の感覚はそれぞれですが、たとえば大学院は平均して100万円前後。国家資格取得の相場は約50万。民間講座は手軽なものから資格取得までさまざまありますが、費用対効果はある程度比例します。

大量のお札に埋もれた時計
写真=iStock.com/imagedepotpro
※写真はイメージです

自分にふさわしい自己投資額は、いくらなのか。

目安になるのが、投資から得られるリターン。副業の平均月収は5万~10万円であり、副業獲得を目指す場合の目安になります。もう一つ、「いつまで働くか」。生涯年収を考えてみると、長期視点での自己投資も選択肢に入ってくるでしょう。「やる/やらない」は置いておいて、まずは期間、自己投資、リターンのバランスの健全性を考えてみるだけでも、自分の中に基準ができていきます。

定年までまだ時間があるとすれば、働きながら自分に投資ができるので、自己投資比率が少々高くなってもリターンが見込めるでしょう。要するに、50代の自己投資額は“セカンドキャリアの資本金”とみなして、自分で納得がいく額を決めるのが得策です。基本的には、「小さく始めて練習する」というリスクヘッジの考え方を、私はお薦めしています。