「賭け事」のイメージのせいで事業ができない自治体も…

麻雀は昨今、計算能力やコミュニケーションの能力の向上につながるとして、子どもたちの情操教育に有効だと言われている。そして高齢者にとっても、計算を行うことや指先で立方体のものを扱うことが脳に刺激を与え、認知症予防に効果があると考える医師もいる。何より、麻雀をやって楽しいと思う気持ち、勝ち負けに熱くなる思いが、精神的な衰えを防ぎ、より良い老後を送ることにもつながるだろう。

一方で、長らく賭け事と紐付いてきた麻雀は、まだまだよくないイメージを持たれることが多い。介護事業は税金を原資としてサービスを提供しているため、「市民の血税で麻雀をさせるのはいかがなものか」という意見もある。

ポーカーチップと札束
写真=iStock.com/Filippo Carlot
※写真はイメージです

神戸市では「一日中、パチンコやカードゲーム、麻雀を主として行うサービスは介護保険事業の対象としてふさわしくない」との見解を示し、デイサービスとしてこのようなサービスを提供することを条例で禁じている。そのため、現状ではウェルチャオのような介護事業者は市内で事業を行うことはできない。

ただ、実際に行政などとやり取りをすると、担当者にも麻雀ファンは多く、これまでのような取っつきにくさは持たれていないと感じている。小林さんも「行政との交渉などでMリーガーの僕の名前が信用につながるならありがたいし、どんどん使ってほしい」と、協力を惜しまない姿勢だ。

「賭博」要素がなくても楽しんでもらえている

ウェルチャオでは「賭博」の要素を取り除こうと、同業他社にあるような「麻雀で勝つともらえるポイント」などの特典は取り入れていない。それでも利用者からは目立った不満は出ていないという。

何よりも利用者の満足度が高いことが広まることで、世の中の風潮が変わっていくと金さんらは信じている。

実際、金さんらには「麻雀×デイサービス」という異色の組み合わせが世の役に立っているという自負がある。

ウェルチャオの責任者を務めながら麻雀プロとして大会に出ていた金さんの元にある日、一人の男性が1枚の写真を差し出した。

「写真には小林さんと私、そして高齢の方が3ショットで収まっていました。聞くとその方は男性の亡くなられた父親で、妻を亡くして自宅に籠りがちになっていたのが、晩年はウェルチャオで麻雀を打つことをとても楽しみにされていたそうです。そういうお話を聞くと、この事業をやっていて本当に良かったと感じます」(金さん)

「麻雀は賭けなくても楽しいゲームです。勝つとうれしいし、負けると悔しい。そしてレベルにかかわらずそれぞれの楽しみ方ができますし、私もみなさんと麻雀を打つことで、いつも新鮮な刺激をいただいています。先日はMリーグで優勝できましたので、今度はMリーグチャンピオンとして、みなさんと卓を囲めたらと思います」(小林さん)

新刊『常識を疑え!小林剛の麻雀新セオリー』を上梓した小林剛さん
新刊『常識を疑え!小林剛の麻雀新セオリー』を上梓した小林剛さん