仕事の魅力が上がり、出産育児の魅力が下がった

【権丈】日本でも、ジェンダー平等や職場における女性活躍推進が進み、仕事(ワーク)の魅力がアップしてきているといえます。そうすると、ほかの事情が一定の場合、出産・育児などで仕事を辞めることの機会費用が高まります。

機会費用は、結婚・出産・育児のため就業していなかった期間の逸失所得と、②就業を継続した場合と(結婚・出産・育児のため)退職し再就職した場合の所得差を、足し合わせたものです。機会費用が大きくなると、仕事に比べて、生活(ライフ)の魅力が相対的に低下します。結果として、それが少子化という現象になって現われるというわけです。

若い人たちにとっては、目の前にある環境の中で合理的な選択をしているのですが、それを社会は、未婚化、少子化と問題視している。社会からみれば「合成の誤謬」に見えるわけです。だから、社会が、ワークに対するライフの魅力を底上げするよう、若い世代に社会的支援を行おうとしている。そういうことが今展開されていると考えています。少子化対策という言葉を使う人もいますが、若い人たちに対して、ちょっと失礼ですね。

空を見上げる女性
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30代以降の未婚が爆上がりした原因

【海老原】私の見方は、少々異なります。子どもを産んでも働ける制度が整ったため、結婚した女性は子どもをしっかり産むようになった。この傾向は今も続いています。ところが、です。そもそも結婚をしない人が増えている。それが問題だと思うのです。

国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美穂さんが分析されているのですが、既婚女性の出生行動を見ると、ベビーブーム世代の1972年も今も、違いはほとんど見られません。出生率の減少は、結婚しない人が増えたことと、結婚した人も晩婚化で出生行動のスタートが遅れることが問題だ、と分析されています。つまり、未婚・晩婚が主因ということになるでしょう。

ではなぜ、未婚・晩婚が進んだのでしょうか? 実は、政府も識者も2003年あたりから「子どもは早く産むべき」という声を盛んに上げて、若い人たちに啓蒙し続けてきました。それが功を奏して、「最初の子どもは女性が20代のうち」と考える割合は、2015年の時点ですでに、独身男性75.3%、独身女性は80.1%と高率になっている。

ところが、女性の初婚・初産年齢は上がり続け、未婚率も上昇の一途です。2020年現在、30歳から34歳の女性の未婚率は38.5%、実に4割に近くなっています。

【図表5】「早く産め」論から20年、効果は「未婚率の上昇」に帰結

私は、この「早く産むべき」論が、ある面、逆効果になっていると思えて仕方がないのです。30歳を過ぎた未婚女性は「子どもを諦め」、一方、男性は「三十路の女性はやめたほうがいい」と思うようになるでしょう。結果、30代以降の未婚率が爆上がりするわけです。