女性の就業環境は大きく改善した
【権丈】結婚しない人が増えたことはそうですが、昔と比べて今の時代、結婚しなくても普通に生きていくことができる環境になってきていますよね。海老原さんは、昔に比べ、日本の女性が追い立てられるように生きざるを得ず、不幸になっていると考えられているように思いますが、私は、あまりそう思わないんですよ。
その昔をもう少し幅広い視野で振り返ってみると、1世紀、半世紀ほど前は、多くの女性は結婚して、子どもを持たなければ、経済的に高齢期を含めて相応の人生を全うすることができませんでした。しかし、今は、高齢期の生活費を社会化した社会保障制度も整い、男女とも結婚しないでいることへの有言・無言の社会的な圧力も弱まり、既婚であることと社会的信用を関係づけて見る人もほとんどいなくなっているように思えます。
海老原さんも書かれているように、女性の結婚年齢について、24、25歳を過ぎたら売れ残りというクリスマスケーキ説がありましたが、今ではそんなことをいう人もいなくなりました。多くの女性にとって、かつてと比べて、人生の選択肢と可能性が広がっているのではないかと思います。
昔は仕事と比べようがないくらい結婚の価値が高かった
【権丈】女性が学校卒業後、結婚、出産とキャリア形成を同時に考える必要が高まり、忙しくなっているとは言えるでしょうが、彼女たちは、母親や祖母たちの世代ほどには、何歳までに結婚、出産しなければならないという制約をあまり意識していないのではないかと思います。「早婚・早産」論が女性を不当に追い詰めているという人もいますが、実際はそれほどでもないのではないかとも思っています。
1985年に男女雇用機会均等法が制定されました。その制定にあたり、赤松良子さんをはじめ、当時の労働省官僚の面々がいかに奮闘したかを描いたNHKの「プロジェクトX 女たちの10年戦争『男女雇用機会均等法』誕生」のなかに、以下のようなナレーションがありました。
いわく「経済界は(男女平等を定める)法律制定に反対と表明した。『結婚や出産ですぐ辞める女を男と同じには扱えない』」「採用を調べた。4年制大学の女性の就職はほとんどなかった。わずかな募集には容姿端麗などの条件がついていた」「ある財界の大物は言い切った。『だいたい女に選挙権などやるから歯止めがなくなっていけませんなぁ。差別があるから企業が成り立っているんですよ』」。こういう社会で生きていた当時の女性は、結婚に対してもっと切羽詰まっていたのではないかと思います。当時は、ワークとは比べようもなく、結婚というライフイベントの価値が高かった。