「何の症状もない段階」で予防を始めたほうがいい

心臓力を高めるために重要なポイントは、自分がいまどの段階にいるのかを客観的に評価することです。特に気をつけなければならないのは、何の症状もないステージAやBをきちんと意識すること。ステージCに至ると、心筋梗塞のように重大で、もう後戻りできない障害が発生するからです。

そうなったら、心臓力どころの話ではなくなります。もちろん、きちんと治療すれば十分にハッピーな生活を送ることができますが、完全に健康な心臓に戻ることは困難です。さらに悪化すれば、寝たきりになってしまうかもしれない。AやBの段階できちんと心臓力を高めるための行動をとり、予防を始めなければなりません。

そう心がけることを、私は「上流意識」と呼んでいます。

「結果にはすべて原因がある」――その言葉が最もよく当てはまる臓器が心臓です。下流(重症心不全)で起きる問題は、じつは、上流でつくられています。だからこそ、自分がまだ上流にいるときに問題の芽を摘んでおかなければならないのです。

具体的には、高血圧、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、不整脈、睡眠時無呼吸症候群など、なんとなくカラダに悪そうな生活習慣病。これが上流にあれば、心不全の第1段階なのだと意識すること。

そして、その進行を遅くさせるために、いかにそれらをコントロールするかを考えながら日々の生活を送る。下流に至ってからでは、もう遅いのです。

高齢者に説明する男性医師の手
写真=iStock.com/kazuma seki
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これからくる「心不全パンデミック」

現在、日本人の心臓はかなり弱ってきています。

厚生労働省のデータ(2022年)によれば、日本人の死因の1位は悪性新生物(ガン)、2位が心臓疾患、3位が脳血管疾患(脳卒中など)です。この順位(老衰は除く)のおおまかな傾向は、1990年代半ばから変わっていません。

ガンで亡くなる人が多いことは、すでに知られていると思いますが、その患者数は約100万人。それに対して、心不全の患者さんは約120万人で、2030年には130万人に達すると予想されています。この数字を見るにつけ、心不全になっている人がいかに大勢いるかがわかります。

「心不全」は病態であり病名ではないので、死亡診断書には載りません。つまり、総称としての「心不全」が原因で亡くなっている人の数は、厚生労働省の発表よりはるかに多いということ。私たち心臓を専門とする医師は、この爆発的な増加を「心不全パンデミック」と呼び、高齢化社会が進むにつれ、どのように心不全の「患者さんたち」をマネジメントするのかに腐心しています。

心不全は「人生100年寿命」の前に立ちはだかる最難関の壁であり、心不全を回避し、心臓力を高めることこそが健康への近道――そこに疑いの余地はないのです。

「心不全とは、あらゆる疾患の終末像である」――そんなイメージだと思うのですが、いまはもうそんな時代ではありません。

ステージAやBという、まったく症状がない状態でも、それを心不全の第1歩ととらえて、進行しないように改善していくのです。