勇気ある変化を起こさないと「時代遅れのスポーツ」になる
実際に僕が現地でオープン戦を視察した時は、まだルールに慣れていないため少しイライラした様子が見てとれる投手や、打席に入り忘れてしまう打者もいました。しかし、データが示す通り、シーズンが深まるにつれて定着し、全体的な印象として大きな混乱を招いているとは思えませんでした。
試合の時短にはルール改定だけではなく、ピッチコムの導入も大きく影響しているでしょう。投手と捕手のサイン交換を行うための電子機器で、従来の捕手から発信する指や体を使ったサイン交換では、ピッチクロックで定められた投球間隔に間に合わない心配を解消しました。
ピッチコムはバッテリーの他にも最大3人の野手が着用でき、バッテリー間のやりとりを音声情報として受け取ることができます。目に見えないサイン交換ができるので、サイン盗み問題も解決できるという機器です。
ともすれば、野球の本質を変えかねないルール改定や新ルールの導入です。正式採用される前はもちろん、採用された後も異議を唱える声が上がり大いに議論されたと聞きますが、それでもアメリカでは野球というスポーツを未来へつなぐためにも、勇気ある変化を起こしているのです。
いい伝統は引き継ぎながらも、時代に即した変化を厭わない柔軟な姿勢を持たなければ、時代遅れとなり取り残されてしまいます。
選手でさえ「試合が長い」と思っていた
日本でも、早ければ2025年シーズンにもピッチクロックやピッチコムを導入したり、牽制ルールなどを改定したりする議論がなされるでしょう。アメリカのように時代に即した対応をするべきですし、常に世界基準は意識しておくべきです。なぜなら、これまでWBCに代表される国際大会はメジャーリーグのルールに準じた形で開催されてきたからです。
おそらく2026年に開催される第6回WBCでピッチクロックが導入される可能性は高いでしょう。ただでさえ、日本の投手陣は公式球に慣れるために時間を割かなければなりません。さらなる負担を強いることのないよう、世界基準に合わせたルール改定は必要です。
試合時間の長さは、日本でもまた、懸念点の一つとされてきました。実際、僕もプロ野球の試合解説を行う時に「長い」と感じることが多々あります。正直に言えば、選手や監督としてユニホームを着ていた時も、試合が終わるとその長さに憔悴しきってしまうことがありました。
監督でも疲れ果てるのですから、プレーしている選手たちにとって試合時間が短くなることはプラスでしかありません。体への負担が減ると同時に注意力が散漫になることもなく、怪我のリスクが軽減されるからです。