なぜ「子供たちの野球離れ」が進んでいるのか。元プロ野球選手でメジャーリーガーの井口資仁さんは「いまの野球は子供の身近にある遊びではなくなっている。行政やプロ野球界の積極的な活動がなければ、野球離れは解消しない」という――。

※本稿は、井口資仁『井口ビジョン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

野球をしている二人の子供
写真=iStock.com/recep-bg
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野球はやっぱり日本の国民的スポーツ

「未来に向けて、どんなビジョンを描いていますか?」

2022年10月に監督を退任してから、皆さんによく聞かれる質問です。ビジョンを描く際、僕の中で揺るがない軸となっているものがあります。それは「野球を次世代につなぐ」という思いです。

物心ついた頃から、野球は僕にとって生活の一部であり、欠かせない存在となっています。好きで始めた野球はいつしか職業となり、さらに選手から監督、評論家へと立場が変わりました。野球との向き合い方やそれを取り巻く環境は変化してきましたが、社会性やチームワーク、人を思いやる心や負けたくない気持ち、試合に向けた準備の重要性など、野球を通じて人として大切なことを学びました。

世界がコロナ禍にあった時は、野球をはじめスポーツは人々の生活に「不要不急」のものと見なされることもありました。確かにそうなのかもしれませんが、2023年の第5回WBCで日本が3大会ぶりの優勝を飾った時、日本で巻き起こった熱狂を思い出してみてください。スポーツの中でも特に野球は日本人の心を摑む魅力を持ち、日本中が一体となって盛り上がれる国民的スポーツなのです。

侍ジャパンの試合を観ながら大いに喜び大いに憂えるファンの姿を見て、確かに野球は不要不急かもしれないけれど、生活に彩りと潤いを与える重要な役割を担っているのではないか、と感じ入りました。

「野球のバトン」が途切れつつある

先人たちから受け取った野球のバトンを、今度は僕たちがしっかりと次の世代につなぎたい。そう思うからこそ、野球の競技人口が減っていると言われることに対し、僕はすごく強い抵抗感を覚えます。

そう言われないためにも、まずは子供たちが野球を身近に感じられる環境、思い切って野球を楽しめる環境を整えていきたいと考えています。いくら子供たちの野球離れを食い止めよう、競技人口を増やそうと言っても、環境が整っていなければ問題は解決しません。