食材を細胞単位でバラバラにする

食材のペーストを作る方法となると、「ミキサーにかける」「圧力鍋で煮込む」というイメージだが、これらの方法だと食材の細胞が壊れ、栄養成分が溶け出したり、減少したりするうえ、色も悪くなってしまう。青々としたブロッコリーを茹ですぎて、黄色く変色させてしまったことはないだろうか。あれでは美味しそうに見えない。

それを克服するため、同センターでは当初、酵素液に細断した野菜を漬けて、細胞単位でバラバラにする研究を開始した。だが、狙い通りにはいかなかった。そこで2000年、食材の中に酵素液をしみこませて組織を分解する方法に変更した。

研究開始からすでに3年の月日が流れていた。

「真空含浸法」から「凍結含浸法」へ

食材の中に物質を浸透させる「真空含浸法」は酵素液を作り、食材を浸漬した状態で真空処理(減圧処理)する方法だ。柴田たちは、来る日も来る日も一口大にカットしたニンジンや大根を酵素液に漬けて真空処理したが、食材の表面にしか酵素は浸透せず、表面のみ分離した細胞がペースト化した。

「どうやったら食材の中心部まで酵素液をしみこませ、食材全体を単細胞化ペーストにすることができるか、この難点をブレークスルーすることに大変苦労しました」(柴田)

「真空含浸法」を採用し始めてから1年。思いがけずブレークスルーを迎える。それが冒頭の出来事だ。一口大のニンジンの中心部まで酵素液をしみこませ、全体を単細胞化ペーストにすることに成功したのだ。

ところが、柴田を含め研究員4人はそれができた理由が分からなかった。

「いつもと何が違うのかを徹底的に意見交換しました。数日経ってやっと『まさか、冷凍したから?』という仮説が出され、『冷凍→解凍で、組織が緩むんじゃない? たぶん、それで酵素液が入りやすいんだよ!』という話になりました。発見当時は『凍結含浸法』=『やわらか食の製造技術』ではありませんでしたが、入庁6年目だった私は、食品加工技術の面白さを体感し、『何でなん?』『どうやったん?』『マジで?』の連発でした。発明は意外なところで起こるものだなと。振り返れば、あの時の実験が転機でした」(柴田)

柴田たちは、すぐにいろいろな食材を冷凍後に解凍し、「真空含浸法」にかけて確認。すると、タケノコやゴボウ、レンコンなど、煮ても焼いてもやわらかくなりにくい野菜が、いとも簡単にペースト化できることが分かった。凍結解凍した食材を真空含浸する新しい方法「凍結後減圧酵素含浸法(凍結含浸法)」が発見された瞬間だった。

【図表】凍結含浸処理(酵素含浸)後に熱風乾燥した食材
写真提供=広島県