余計な情報をそぎ落とす

そして、なにも全部を覚えてもらう必要はない、と思考を転換しましょう。

その前提に立つと、余分な言葉や段落を思いきって削除したり、いちばん伝えたいことの記憶への定着を助ける言葉や表現を探していけるようになります。

そして、与えられた時間の中でどこを記憶してもらって、どういう印象を持ってもらうかという、戦略的な考え方ができるのです。

この点を見極めなければ、せっかく話しているあなたの時間も、聞いてくれている相手の時間も無駄になってしまいます。

男性から複数の吹き出しが出ているイラスト
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
※画像はイメージです

話し言葉では「一文の長さ」を短くする

このことをより一層実感してもらうために、「一文の長さ」を考える重要性について解説しましょう。

ここでいう一文とは「みなさん、こんにちは。」や「今日は、会社紹介をしていきます。」といった、話し始めから句点がつくまでを指します。

先ほどの時間と記憶の関係に立ち返るとわかりやすいのですが、この一文の長さが短いほど意味がわかりやすく、長いほど意味がわかりにくくなります。

例えば、次の文章を「音声」で聞くイメージで読んでみてください。

まずは一文が長くてわかりにくい例です。

>スピーチライターの千葉佳織と申しまして、私たちは話し方トレーニングkaekaというサービスを運営しているのですが、このたび『話し方の戦略』という本を出版することになりまして、この本は5000人以上のトレーニング実績をもとに話し方を体系的に解説しているのですが……

いつまでたっても句点がつかず、どこに情報の区切りがあるのかわかりません。

前の文章を聞いているあいだに次々に新しい情報が重ねられるので、重要なポイントが理解できなかったり、最初のほうに聞いたことを忘れてしまったりすることで、全体の意味が理解しにくくなるのです。

文章で繰り返し読むとなんとなく意味はわかりますが、消えていく「音」として、着地点がわからないまま長時間にわたって話が続くと、記憶と理解が崩壊してしまいます。