もちろん、どんなわがままもアリではないです。ゴールに到達するために役立つわがままであれば尊重されますが、反対に目的と関係のないわがままは意味がありません。チームラボでは「私はこうしたい」と言うと無視されます。わがままは常に、「こうしたほうがいいと思う」「ああしたほうが最終ゴールに近づくはず」という文脈で語られるべきです。

そして、わがままの内容は、具体的なほうがいいです。チームラボでは、プロジェクトチームの中で意見やアイデアを出す場合には、常に具体性が求められます。わかりやすいように、「餃子づくり」を例にお話ししましょう。仮に、「おいしい餃子をつくる」ことをゴールに設定したプロジェクトチームがあったとします。「野菜と肉を混ぜて皮に包んで焼いたら肉汁が閉じ込められておいしそうだからやってみたい」というわがままは、多くの人が思いつくもので抽象性が高く、アイデアとしては未熟です。大事なのはクオリティを高めるための発想で、皮をどうするか、餡をどうするか……細部の追究が重要となります。たとえば、「皮をつくる粉に少しだけもち粉を入れてみたらフワッとした」という発見があれば、「おいしい餃子づくり」への具体的な提案につながります。「もち粉の分量をさらに増やしたら、よりフワフワになって食感が楽しめそうだから採用したほうがいいと思う」という、価値あるわがままが生まれます。こうした具体的なアイデアの積み重ねが、最終的にクオリティの高いアウトプットをつくり出すのです。

【図表】チームラボのわがまま組織論

わがままを活かすにはルールは少なく

わがままを言いやすい環境だと、統制を取るためについ制約をつけたくなることもあるでしょう。チームの生産性を上げたいなら、ルールは少ないほうがいいです。ルールを増やすと、ルールを運用するために別のルールが必要になり、ルールを破った人への罰則も決めなければなりません。ルールが目的化してしまい、何のためのルールなのかわからなくなってしまいます。

チームラボには、たったひとつのルールしかありません。それは、「クオリティが高いものをつくることが正義」であること。形がハードであれソフトであれ、モノづくりはアウトプットの善し悪しでしか評価されないからです。ですから、プロジェクトチームの会議で意見を出すと、「それはクオリティを高くできるの?」と問われます。この基準が曖昧だと、会社の方向性とやっていることがズレてしまいますし、目的がブレて結果的にアウトプットのレベルが下がります。

たとえば出社時間も厳密に1分単位で遅刻がどうとか問うつもりはなく、なんとなく10時くらいにみんなが集まっていたらいい、という程度です。

ルールがシンプルであれば、それ以外は自由であることが全員に浸透します。その結果、「クオリティの高いものをつくることが正義」に集中できるのです。

メンバー間で活発にコミュニケーションが取れるよう、天板を分厚いメモ帳にした机がオフィス内に置かれている。
メンバー間で活発にコミュニケーションが取れるよう、天板を分厚いメモ帳にした机がオフィス内に置かれている。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。

(構成=向山 勇 撮影=関 竜太)
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