母親も子どもと一緒に成長していくもの

生まれてきた命が1日1日をつつがなく育つ過程では、多くの場合、心身を砕いて世話をする役割を母親が担う。だが、産んだ女性はすぐに育てる技術を身につけているものではない。ひとつひとつ、慣れない行為を繰り返しながら、赤ちゃんとの生活に慣れ、覚えていく。親になることはたった1人ではほとんど不可能だ。赤ちゃんへの献身を周囲の他者からねぎらわれ、大切にされて初めて、産んだ人は赤ちゃんとの生活を肯定でき、少しずつ親になっていく。

三重県の一見勝之知事は4月、検証報告書を踏まえて児童虐待の再発防止策を発表した。その内容は、朝日新聞(4月11日)によると以下の通りだ。

再発防止策は、児童を一時保護するかどうかを判断する現行のリスクアセスメントシートに、出産の経緯や養育力をチェックする項目を追加▽乳児院に入所し、家庭復帰を予定する児童について、原則月1回以上の親子交流を実施▽施設などを退所する1カ月前までに市町に引き継ぎのための会議開催を求め、会議後に入所措置を解除する。

孤立する親への支援が、虐待防止につながる

だが、虐待の危険に脅かされた子どもの隣には、孤立した母親や父親がいる。孤独な親に歩み寄り、語りかけ、心の重荷を軽くする支えとならない限り、親による虐待を防ぐことはできないのではないか。責めるのではなく、親の孤独のわけを知ろうとすることこそが虐待の防波堤であることを、この事件は私たちに教えている。注意深く接するべき対象は、親なのだ。

検証委員会の委員長・佐々木氏は、報告書を提出した際、三重県に、「こうのとりのゆりかご」を運営する慈恵病院の蓮田健理事長を招聘したシンポジウムの開催を提言したという。孤立出産の問題を学ぶことは、孤立出産の虐待リスクはもとより、周産期に関する孤立女性の困難を知るうえで重要だからだ。これは三重県だけに限った課題ではないと佐々木氏は言う。

最後に、孤立出産が食い止められたひとつのケースを紹介したい。福岡市在住の女性は過去に孤立出産の経験があった。新たな妊娠にあたり、今回も1人で産むつもりだと、女性は上の子が通う保育園の保育士に打ち明けた。

保育士は理事長、園長と話し合い、熊本市の慈恵病院に相談をした。蓮田真琴新生児相談室長は保育士から状況を聞き取り、保険証の復帰手続きや地域の保健師、病院との連携など、具体的に助言。保育士が女性に情報を伝え、説得を続けた結果、受診につながり、女性は無事に地域の病院で出産することができた。赤ちゃんは保育園に入園し、元気に育っている。

なお、この保育園は「子どもとその家族が、今よりもっと幸せに暮らせますように」を運営理念に掲げる。親、とくに母親の支援に力をいれてきた歴史がある。

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