仕事と家事育児の両立は大変だ。心身ともに元気でいるためにはどうすればいいのか。外資系企業で年間1000名以上と面談をしている産業医の武神健之さんは「家事や育児で帰宅後も忙しい人は、精神的な緊張が高い状態が続いている。その状態が続くと、周囲に比べて仕事量が少なくても心身ともに疲れ果ててメンタル不調になってしまうことがある」という――。
自宅でラップトップの残業
写真=iStock.com/Tirachard
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循環器内科に行こうとしていたAさん

こんにちは。産業医の武神です。4月は職場では人事異動や転職、家庭では子供の入学や進学など、公私ともどもの環境変化が多い時期です。

今日はこの時期から産業医面談で増えてくる育休明け社員のメンタルヘルス相談について、産業医面談の事例からその対策の提案も含めてお話ししたいと思います。

数年前、動悸を訴えて産業医面談に来られたのは、その年の4月に育児休暇から復帰したばかりの30代女性社員Aさんでした。

復帰後まもなく、会社でも自宅でも仕事や家事が一区切りついて少し休もうとすると、心臓がバクバクいっていることに気がついたとのことです。もともとマラソンを趣味としているだけあって、体力と心臓には自信があったのにと驚き、循環器内科に行こうと思っているが、仕事と育児に追われて受診する時間がなく、ふと社内メールで見つけた産業医面談に来られたとのことでした。

復帰後の生活をお聞きすると、平日の朝は、8時に子供を保育園に預け出社し仕事開始。お迎えのために17時に退社とのことでした。帰宅後は1歳半の子どもの相手をしながら、ご飯を作って寝かしつけてから、夜には家で仕事を再開。週末は家事と育児と持ち帰りの残業で、家と会社の境目もないような生活が続いているとのことでした。このような生活の中、疲れているからよく眠れているはずなのに、睡眠が上手に取れていないことがわかりました。

“逆算時間”を生きている人は不調になりやすい

「働くおかあさん」は大変です。

朝起きたら子どもの登園時間から“逆算”して、家を出る時間、朝食の時間、子どもを起こす時間を考える。子どもを園に送り、出社すると今度は、退社時間から“逆算”して日中の業務をせわしなくこなす。友人との優雅なランチタイムなどはなく、退社時間は園のお迎え時間から“逆算”し、5分でも早く退社するために、いつもデスクランチか昼食抜き。そして、子どもと帰宅すれば、明日子どもを起こす時間から“逆算”して寝かしつける時間を計算し、さらにそこから“逆算”して全ての家事育児タスクをこなすといった時間の使い方を指しています。このような人は“逆算時間”を生きている人として、注意が必要です。

このような生活が続くと、仕事量が多い場合はもちろん、時短勤務や業務量の調整など、たとえ周囲に比べ仕事量が多くなくても、次第に心身ともに疲れ果ててメンタル不調になってしまうことがあります。