建物の表面に特徴的なデコボコをつくっている出窓は、すべて開くわけではありません。大きな窓ははめ殺し(フィックス窓)で、その両側にある細い窓だけ空気を入れ換えるために開閉できます。採光と換気の機能を持つこのような窓のスタイルは、のちに「シカゴ・ウィンドウ」と呼ばれるようになりました。
ルイス・サリヴァンの多様な作品
バーナムのリライアンス・ビルは広いガラス窓が軽やかな印象を与えますが、その数年前には、重厚なロマネスク建築風の高層ビルが建てられています。ルイス・サリヴァン(1856~1924)の設計によって1889年に完成した「オーディトリアム・ビル」です。こちらもシカゴを代表するビルのひとつとなりました。
サリヴァンは10代後半のうちからフィラデルフィアやシカゴの建築事務所で働き、パリのエコール・デ・ボザールにも留学。ボザールでは、ミケランジェロをはじめとするルネサンス建築の影響を受けたようです。
彼の代表作であるオーディトリアム・ビルは、外観はまさにロマネスク建築のように分厚い石を組み上げているように見えますが、もちろん、その中は鉄骨。下から上まで大きく3分割したデザインが特徴的です。重厚な基壇の上に、ギリシャ神殿風の長い柱が伸び、やわらかいアーチが最上部を支えている。たいへん美しい新古典主義の名作だと思います。
ただ、サリヴァンは必ずしも新古典主義の全面的な支持者だったとはいえません。そのためにバーナムと対立もしています。
というのも、バーナムが指揮したシカゴ万博は、会場が「ホワイト・シティ」と呼ばれるほど、ヨーロッパ風の宮殿など白一色の古風な建物が並びました(ちなみに日本館は、京都府宇治市にある平等院鳳凰堂のミニチュア版でした)。
サリヴァンもこの万博には関わっていましたが、新古典主義が前面に押し出されたことについて「この国の建築を50年遅らせた」とバーナムを強く批判したといわれています。
ヨーロッパの伝統文化に対する憧れがあった
しかし高層ビルの設計を発注する実業界の人々には、ヨーロッパの伝統文化に対する憧れのようなものが根強くあったのでしょう。オーディトリアム・ビルも、そういうニーズに応えて設計されたのかもしれません。