トランプ前大統領と面会した麻生氏の狙い

岸田首相と真逆の立ち位置に陣取ったのが、岸田政権の「生みの親」である麻生氏だった。岸田首相がワシントンから帰国した後、入れ替わるようにニューヨークへ飛び立ち、トランプ前大統領とトランプタワーで会談したのだ。

岸田首相がワシントンでバイデン氏と過ごしていた頃、フロリダにあるトランプ氏の自宅「マール・ア・ラーゴ」を英国のキャメロン外相が訪れていた。米国と最も絆の深い同盟国である英国が露骨に「もしトラ」に動き出したのだ。世界の注目はワシントンよりフロリダに集まり、岸田首相の国賓待遇の訪米は米国内では見向きもされなかった。

麻生氏は日本で真っ先に「もしトラ」へ動いたといえる。

麻生氏は岸田政権のキングメーカーとして君臨してきた。子飼いの茂木幹事長とともに自民党本部に陣取り、岸田首相を首相官邸から呼びつけ、その3者会談で政権の大方針を決めてきたのである。岸田政権はまさに「麻生傀儡」だった。

トランプ前大統領と面会した麻生氏

つかず離れずの「仮面夫婦」状態となった岸田氏と麻生氏

岸田首相は麻生氏からの自立を模索してきた。最初に「親離れ」を画策したのは昨年9月の内閣改造・党役員人事だった。ポスト岸田への意欲を隠さない茂木幹事長の交代を目指したが、この時は麻生氏に土壇場で猛反対され断念した。それでも諦めなかった。財務省の後見役である麻生氏の意向を無視し、所得税減税を打ち上げたのだ。このあたりから岸田―麻生関係は冷え込み始めた。

両者の関係が決定的に悪化したのは、裏金事件を受けて岸田首相が独断で岸田派解散を表明した後だ。岸田首相が派閥解消を呼びかけたことで、安倍派、二階派、森山派が相次いで解散を表明し、茂木派も解散に追い込まれることになった。麻生派存続にこだわる麻生氏が逆に孤立する事態になったのである。麻生氏は激怒し、岸田首相への疑念を深めた。

岸田首相が派閥解消――安倍派処分――国賓待遇の訪米で支持率を回復させ、6月解散を断行するなら、麻生氏からの「親離れ」は完結するだろう。総選挙に勝利して総裁再選を果たせば、もはや麻生氏に頼る必要のない強力な政権基盤を手に入れることができる。

しかし支持率は回復せず、補選全敗で6月解散は困難になり、総裁選に向けて麻生氏と決別するわけにはいかなくなった。岸田―麻生関係は外見上はよりを戻し、つかず離れずの「仮面夫婦」状態にあるとみていい。

鍵を握るのは9月時点の米大統領選情勢

麻生氏は、9月の総裁選で岸田首相が再選を果たしても、新しい首相が誕生しても、トランプ氏との交渉窓口を独り占めすることで、キングメーカーの座に踏みとどまるつもりである。バイデン政権が麻生―トランプ会談に不信感を強めたのは気にも留めず、岸田首相とは裏腹に、トランプ勝利に賭けたのだ。

日本政界のトップ2はそろって「日米連動政局」を描いている。