直江津における成功の意味

最後に戦略論の視角から、「無印良品 直江津」の意義を振り返っておこう。直江津におけるコミュニティ型店舗の成功は、良品計画という小売企業の国内戦略に何をもたらしたのだろうか。

直江津伝統の朝市「三・八の市」にも出店。菓子やカレーなどを販売している
直江津伝統の朝市「三・八の市」にも出店。菓子やカレーなどを販売している(画像=プレスリリースより)

現在の日本国内の小売企業の事業環境は厳しい。各種の小売事業のフォーマットのもとで成長を遂げた企業も、ターゲットとなる市場をカバーしてしまえば、成長余力は失われる。そこに全体としての需要の縮小や、新たな競合の出現などが降りかかると、当面はM&Aなどで一時的な業容拡大をはかることはできても、その先の打ち手は詰んでいく。そのままでは、事業を縮小しながら延命をはかるという、負のサイクルに陥ることが避けがたい。

良品計画は、こうしたなかにあって、なぜ国内で毎年100店出店というハイレベルな成長を見込むことができるのだろうか。そのひとつの理由として、「無印良品 直江津」が、無印良品の「無消費(Non-consumption)」地帯への出店だったことを挙げることができそうである。

企業側が気づかない「無消費」という潜在市場

「無消費」とは、クレイトン・M・クリステンセンが『ジョブ理論』という本(ハーパーコリンズ・ジャパン、2017年)のなかで提示している概念である。クリステンセンによれば、顧客は自身が抱えている「ジョブ」(課題や困りごと)を解決するために、商品やサービスを購入する。購入した商品やサービスでジョブが解決すれば、顧客は満足し、リピーターになるだろうし、解決しなければ別の商品に乗り換えるだろう。

そして「無消費」とは、顧客となり得る人たちが、ジョブを解決してくれるはずの商品やサービスを消費をしていない状態を指す。なぜ、そのようなことが起こるかというと、彼らは、使い勝手の悪さや価格、アクセスの困難さや日常的な接触機会の不足などの何らかの障壁によって、それらの商品やサービスから隔てられているからである。しかし企業が、自社の商品やサービスの利用にはつながっていないこの「無消費」を発見し、消費を阻んでいる問題をとらえて除去することができれば、眠っていた大きな需要を獲得できる。

「無印良品 直江津」のプロジェクトを通じて、良品計画はこの「無消費」に出会ったといえる。従前は無印良品の出店は難しいと見られていたエリアにおいても、地元の住民や生産者の「ジョブ」をていねいに掘り下げ、それを店舗設計に反映するコミュニティセンター化によって、眠っていた需要をとらえることができることを「無印良品 直江津」は示したのである。