食事と自分好みの酒を楽しんでいた客は、帰りしな、カウンターの向こう側にいる控えめで気配りの快い若いスタッフとの静かな会話を通して、彼が旭酒造から「留職」している身であると知るに至った。

「ごちそうさま」と一言を残して席を立ったその男性客は、会計カウンターのスタッフに、小声で「バーのカウンターの彼、旭酒造の人なんだね。なんだか悪いことをしちゃった」と詫びた。支払いを終えると、「また明日来て、獺祭を飲むよ」と苦笑いを見せて店をあとにしていった。

天乃川の店内
撮影=ミヤジシンゴ
カウンターでの接客から新しいファンが生まれた

広場のように人が行き交うことで、新しい風土が生まれる

「連泊中のお客様だったようで、本当に次の日もお一人でいらして、獺祭を上機嫌で3合も飲んでいかれたそうです。お客様にだけでなく、私どもにとってもサプライズになったケースだと思います」(杉浦氏)

京王プラザホテルと旭酒造、そのサービス、商品を、足し算から掛け算に変える一つの瞬間になったということであろう。

京王プラザホテル社長の若林氏は、社名の由来から話した。

「『プラザ』とは『広場』という意味です。私どもは創業時から、多くのお客様が集まって、思い思いに過ごしていただける広場をつくりたいという『プラザ思想』というものがあります」

実際、都心の高級ホテルには珍しく、京王プラザには東西南北に出入口が設けられている。

「とにかく、人が最初にいて、人が中心にあるホテルでありたい。交換留職のように、スタッフを含めた人たちも行き交う広場になって、また新たな風土ができると可能性を感じています」(若林氏)

笑顔の二人
撮影=ミヤジシンゴ
コロナ禍を契機に始まった「交換留職」。スタッフが行き交うなかで相乗効果が生まれている
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