なぜ、配偶者や恋人がいても性的サービス産業に行く男性は多いのか。社会学者の山田昌弘さんは「愛情関係を1人に絞ることなく、分散させて満足させようとするのが日本社会の特徴なのかもしれない」という――。
3つの赤いハート
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「好きで好きでたまらない」感情の行き先

言葉は社会を映します。

「推し」。この言葉が急速に社会に広まったのも、時代の一つの反映だといえます。日常におけるリアルな恋愛というものが衰退する中で、「推し」という言葉が、「好き」という感情の受け皿になったのです。

今の日本社会において、「好きで好きでたまらない」といったロマンティックで非合理な感情は、現実の身近な人間よりも、スターやアイドル、キャラクター、またはキャバクラやホスト、あるいはペットなどに向かっているように見えます。

ダイレクトに相手に好意を伝える「好き」とは違い、「推し」にはどこか「応えてもらわなくてもいい」とでもいうような、一方通行の感覚がある。だからこそ、どこまでも好きになれる。すなわち「好きで好きでたまらない」状態を受け入れてくれるのが、「推し」なのです。既婚女性が、韓国アイドルにハマって月に数回渡航する、などというエピソードはこの言葉が使われ出す以前からありましたが、「推し」という言葉によって、その行為は市民権を得るようになりました。

それと同時に、「推し活」という表現も生まれ、「好きで好きでたまらない」ゆえの行動は、その活動的な面がポジティブに捉えられていくようになります。

なぜ、男はキャバクラや風俗に行くのだろう…

最近ではとうとう、「身近推し」なる現象も出てきました。学校や職場で素敵で「好きで好きでたまらない」人がいても、遠くで眺めて応援しているだけで満足という感覚です。この「身近推し」については、今後の回で詳述したいと思います。

「推し」という言葉がなかった時代は、「追っかけ」もしくは「ストーカー」という、どこか暗い側面も想起させる表現が使われていました。

たとえば、好きなアイドルの「追っかけ」となり、時間やお金をつぎこんでしまい、生活に破綻をきたす。もしくは、男性がキャバクラに通いつめたり、女性がホストクラブに多額の金を貢いでしまったり。その行き着く先が刑事事件になってしまうことも決して少なくはありません。

もしくは、そこまでいかなくても、「妻も恋人もいるのに、なぜ男性はキャバクラや風俗に行くのだろう?」というのが、多くの女性にとっての長年の疑問であるかもしれません。

いずれにせよ、家族やパートナー以外の異性に対し、成人が「好きで好きでたまらない」感情を寄せる行為は「推し」という言葉にソフトにくるまれ、認知されているのが今の日本社会の実情です。