2020年夏に、マネーの蛇口を閉める日本の総量規制と同じ対策を発動した。中央銀行は、不動産企業に対して、①総資産に対する負債の比率が70%以下、②自己資本に対する負債比率が100%以下、③短期負債を上回る現金を保有していることという3つの財務指針(「三道紅線(3つのレッドライン)」)を設定したのである。

2021年1月には、金融機関の住宅ローンや不動産企業の融資に総量規制を課した。借金でマンションを作り続けるという不動産業界の従来型ビジネスモデルが立ち行かなくなり、資金不足のため途中で建設工事を中断する事例が続出した。その結果、代金を払ったにもかかわらず、新築マンションを入手できなくなった国民の不満が爆発した。

深セン
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです

「大きすぎて潰せない(too big to fail)」状況

先述した恒大集団は、既に2021年9月に経営危機に陥っており、そのニュースが世界に流れたため、9月20~21日、世界中で株価が下落した。

恒大集団は、2020年に習近平政権が発動した基準をクリアできず、銀行も融資を控えたため、資金繰りが上手くいかず、建設が中断する工事現場も出てきたのである。不動産投資で大きく成長し、中国有数の企業に成長した恒大集団は、この時点で既に33兆円の負債をかかえていたが、これは中国のGDPの2%にも相当する巨額の債務である。

習近平政権にとっても「大きすぎて潰せない(too big to fail)」状況であったが、下手に救済すれば、富裕層を叩き広範な中間階級を生み出すという「共同富裕」政策に逆行することになる。しかし、放置すれば金融危機を引き起こすことになり、それは中国経済のみならず、世界経済に悪影響を及ぼす。習近平は、そのジレンマに直面したのである。

中国でも「失われた30年」が始まるのか

中国も、日本と同じように低迷の30年、デフレの30年に突入するのであろうか。

日本の場合、バブルの崩壊は金融部門に大打撃を与え、不良債権処理に追われる金融機関の破綻が相次いだ。しかし、現在の中国では、大手国有銀行の自己資本比率は13~20%と高く、また、不動産事業への貸し出しも全体の融資の6%である。これでは、銀行は破綻しない。

不動産開発業者の債務は、銀行からの借り入れよりも、建設会社などへの未払金である。この点でも、日本のバブル崩壊と違う。

ただ、「3つのレッドライン」という規制をこのまま続けていけば、不動産業界の苦境は続く。習近平が考えているのは、不動産開発企業を倒産させずに、マンション購入者に確実に物件を引き渡すことである。

中国の場合、問題は地方財政である。地方政府は不動産開発業者に土地(その使用権)を販売し、その収入でインフラの整備を行ってきた。しかし、不動産不況で予期した収益を得ることができず債務が膨らんだ。累積債務は100兆元(2000兆円)にものぼる。