巨額の「五輪債務」を負担したのは市民だった

しかし、事態は悪化の一途をたどった。撮影は長引き、コストはどんどんかさんでいった。スタジオはとうとう制作の縮小を命じたが、チミノは突っぱねた。私は私のやり方でやる、とチミノは言い、経営陣は黙って金を出すしかなかった。チミノは契約を解除されれば、映画をよそのスタジオへ持って行くこともできたからだ。

経営陣は引き下がった。彼らは憤慨し、大失敗を恐れたが、手を引くにはもう深入りしすぎていた。チミノもエリア・カザンと同様、経営陣を後に引けない状況に追い込んだのだ。

ベント・フリウビヤ『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版)
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今日『天国の門』はハリウッドで有名だが、よい意味での有名ではない。制作費は最終的に当初予算の5倍に膨張し、公開は予定より1年も遅れた。そしてあまりの酷評ぶりに、チミノは早々に上映を打ち切り、映画を再編集して半年後に再公開した。この映画も大コケし、UAは倒産に追い込まれた。

この失敗でチミノの名声は地に墜ちたが、暴走したプロジェクトの代償を払うのは、失敗を招いた張本人でない場合が多い。モントリオールオリンピックのコストが予算を720%もオーバーしたとき、風刺漫画家は嬉々として妊娠したドラポー市長の絵を描いた。

だが、それがどうしたというのか? ドラポーはオリンピックの誘致に成功した。モントリオール市は巨額の債務を完済するのに30年以上かかったが、それを負担したのはモントリオール市とケベック州の納税者だった。ドラポーは落選さえせず、オリンピックの10年後の1986年に引退した。

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