「つかぬこと」は「つまらないこと」?

Q:「つかぬことをうかがいますが」というのは、どういう意味なのでしょうか。

A:「これまでの話の流れとは直接には関係のないことを尋ねますが」という文脈で使うものです。最近では「つまらないことを尋ねますが」というニュアンスで用いられることも多くなっていますが、これは伝統的な使い方ではありません。

日本語の「つく」は、意味・用法が非常に広い動詞です。「つかぬこと」の場合は、「つく」が【付随する】という意味で使われていて、全体として【関係のないこと】を表します。

たとえば、次のようなものです。

「オヤ、和尚さん。こんにちは。いつも和尚さんは顔のツヤがいいね」
「ウム、お互ひに、まア、達者でしあはせといふものだ。ところで、つかぬことを訊くやうだが、お前さんはこの一月ほど、牛がでて、そのなんだな、蹴とばされるやうな夢をみなかつたかな」(坂口安吾『土の中からの話』1947年)

このように「つかぬこと」が【関係のないこと】という意味で用いられた例は、江戸時代からあります。

ところが、【つまらないこと】を表す使い方も多く見られます。ウェブ上でおこなったアンケートでは、「『つかぬことをうかがいますが』には『つまらないことを聞きますが』という意味がある」というのを支持する回答が、若い年代にはやや多いことがわかりました。

【つまらないこと】を表す使い方は、「つかぬこと」の「用法が変化しつつある」ことの反映だと考えることができますが、一方でこれは「伝統的な用法ではない」ことを知っておく必要があります。おそらく、「愚にもつかない〔=ばかばかしい〕こと」からの連想がはたらいているのではないかと思います。

仏教僧
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「ちなみに」は「関連がある」という意味

関連して、「ちなみに」の使い方にも注意が必要です。「ちなむ」は[関連がある]という意味で、「ちなみに」で「これまでの話の流れと関係のあることを付け加えて言うならば」という文脈で用いるのが伝統的です。あくまで「付加情報・参考情報」という位置づけであって、一番重要なことを言い表す場合にはふさわしくないことがあります。特に、相手に何かを尋ねるときに使うのには注意が必要です。たとえば「ちなみに、どれがおすすめですか」は、「(その考えに従うかどうかはわかりませんが)いちおう『参考情報』としてうかがっておきます」というような悪印象を与えかねないので、ちなみにご注意を。